暗い宿命を背負う主人公たち
藤沢周平の初期の作品集「又蔵の火」(文春文庫)を読む。1973年(昭和48年)「暗殺の年輪」で直木賞を受賞した後に出版された。
「あとがき」で著者が、
――どの作品にも否定し切れない暗さがあって、一種の基調となって底に流れている。話の主人公たちは、いずれも暗い運命のようなものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ。
と書いているように、収録されている5編がいずれも暗く重い。が、不快ではなく、『負のロマン』を持った主人公に感情移入できる。
目次
・又蔵の火
・帰郷
・賽子(さいころ)無宿
・割れた月
・恐喝
「又蔵の火」は一族の面汚しとして死んだ放蕩の兄のため、仇討に挑む又蔵の話だが、この表題作より草球の好みは「帰郷」だった。
『弔いの宇之』と異名をとった老いた渡世人の宇之吉が故郷に戻ってくると、様子が変わっていた。かつて世話になった高麗屋は傾き、かわりに野馬の久蔵が勢力を伸ばしていた――。
× × ×
「暗く重い」からユーモアが加味された作風に変わったのは「用心棒日月抄」(1978年)あたりと言われている。
2010年3月12日読了又蔵の火 (文春文庫)
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