2008年3月2日日曜日

柴錬「眠狂四郎」恐るべし

 柴田錬三郎(1917年―1978年)の「眠狂四郎無頼控」〔一〕(新潮文庫)を読む。

 「眠狂四郎」は、時代小説の古典的な作品であるが、恥かしながら初めて読んだ。とにかく面白かった。1956年(昭和31)「週刊新潮」の創刊ともに登場し、人気を博し、柴田錬三郎の代表作となった。

 市川雷蔵(1931年―1969年)の映画を観ていたので、狂四郎に漂う虚無感と、随所で見られるエロティシズムが本でも感じられるだろうと、察していた。その通りだった。まず柴錬の本があり、それを映画化した順序を考えれば、当然だろう。まず本ありき、で映画は始まった。

 大映の監督、田中徳三(1920年―2007年)が雷蔵主演で企画を出して、「眠狂四郎殺法帖」が撮られ、シリーズ化したという。1960年代の邦画黄金期を彩った作品のひとつである。

 どちらかといえば日本人然とした市川雷蔵に、ハーフの眠狂四郎は適役ではないと声をいまだに耳にするが、雷蔵の演技力と類まれなメイクの技術で、はまり役の域まで引き上げたと、草野球音はみる。

 映画でなく、原作本が本題である。

 魅力的なのは眠狂四郎のキャラクターである。
 オランダ医師で、転び伴天連(バテレンの父が大目付の娘を犯した結果、生まれた私生児。女性を惹きつける混血児特有の彫りの深い相貌。男の艶。剣を学んだ老師から、兵法極意秘伝書の代わりに、与えられた無想正宗の名刀。その二尺三寸の剣をして円を描くように回し、相手を空白の眠りに陥らせる円月殺法。黒羽二重の着流し――颯爽たる狂四郎が目に浮かぶ。
 生い立ちから形成された虚無的な性格。転び伴天連の父を斬る宿命と、ストーリーも活劇調で小気味良い。
 
 時代小説のブーム期にある。佐伯泰英らの「居眠り磐音」「密命」シリーズなど文庫書き下ろしが売れている。柴田錬三郎が今、「眠狂四郎」を登場させたなら、必ずやベストセラーになるだろう、と思う。
 わずか一冊読んで、したり顔で語りすぎか。

 以下、蛇足ながら‥‥。
 以前、取り上げた岡本綺堂(1872年―1939年)の「半七捕物帳」(光文社文庫)は(四)巻まで読み進んだ。なかなかスピードが上がらない。 (五)巻に突入したが、最後の(六)巻まで読み終わるまで、どのくらいかかるやら。
 藤原緋沙子の「見届け人秋月伊織事件帖シリーズ遠花火」(講談社文庫)が面白かった。

※蜘蛛巣丸太「草野球音備忘録」では人物名の敬称を省略しています。文章中で「主」の記憶違い・事実誤認・赤字などがありましたら、ご指摘くだされば幸いです。また赤字などの訂正、文章表現などの加筆は随時行っています。

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