2009年8月10日月曜日

風太郎「人間臨終図巻」

大原麗子と江利チエミ

 せめて最期は看取られたい。人知れず、ひっそりと逝くのは寂しすぎる。
 映画「網走番外地」や「男はつらいよ」のマドンナ役を演じた女優、大原麗子(おおはら・れいこ)が東京都世田谷区の自宅で死亡しているのを2009年8月6日、警視庁成城署員が見つけた。同署の調べでは病死とみられる。 62歳だった。
 1970年代にはウィスキーのCMで恋女房が旦那を慕い「少し愛して、ながーく愛して」と甘いハスキーボイスで語る台詞が世の男性を虜にした。好感度タレントランキング1位の座に14度就いた。1999年からは運動能力が低下するギラン・バレー症候群を発症し、芸能活動をセーブしていた。
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 山田風太郎著「人間臨終図巻」(徳間文庫)を読んでいる。古今東西900人ほどの臨終、末期、死に際を記述してある。死亡時の年齢順で、若い人から徐々に高齢化して掲載するように編集されている。
 奇書であり珍書である。よくまぁこれほどの資料を集めたものだ。ただ単に資料の紹介、羅列でなく、それぞれに風太郎の主観を入れた文章に仕上げているのが、『さすが』なのである。文章に長短があり、短いもので10行足らず、長いのは数ページにも及ぶものがある。この長短は風太郎の故人への思い入れの大小と正比例しているのだろうか。
・第1巻:15歳から55歳で死んだ人々
・第2巻:56歳から72歳で死んだ人々
・第3巻:73歳から121歳で死んだ人々
 3巻で構成されている。第1巻の冒頭を飾る(果たして飾る、という表現が妥当か)のは、15歳(数え年16歳)で火あぶりの刑に処せられた八百屋お七、第3巻のトリを務めるのは121歳で大往生した世界一の長寿、泉重千代と多彩だ。
 「人間臨終図巻」3巻は愛蔵書として、折に触れ紐解(ひもと)きたくなる本である。


 
 大原麗子から江利チエミを連想した。「人間臨終図巻」では、『江利チエミ』の項でこう書き出している。
――戦後昭和二十七年、「テネシーワルツ」で売り出し、美空ひばり、雪村いづみと歌の「三人娘」といわれた江利チエミは、昭和四十六年、俳優高倉健と離婚し、四十七年、付人をやっていた異父姉に財産の大部分二億円をだましとられるという災難を受けたころから落ち目になり、キャバレー出演やドサまわりの運命に落ちていった。

 1982年(昭和57年)2月12日、熊本での着物ショーに出演したチエミは、帰京後に芝大門の寿司屋でしたたか飲んだ。酔った彼女をマネジャーはマンションに送った。部屋でも彼女は飲んだ。
 翌日、マンションをマネジャーが訪ねると、ベッドにうつぶせになって死んでいた。解剖の結果、死因は吐いたものが泥酔のため気管につまり窒息したことがわかった。
チエミ45歳だった。

 人間、死ぬときは所詮ひとり――孤独死なんて言葉を軽々しく使うな、との声もあるが、ひっそり逝くのはやはり寂しいと思うのだ。

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 さらに連想は六本木野獣会へ。1960年ごろ六本木にたむろした10代を中心とした若者たちの集団(裕福な家庭の子弟が多かった)は、ファッション、音楽など時代の最先端を突っ走っていた。田辺靖雄、峰岸徹、加賀まりこ、井上順、そして大原麗子がそこにいた。

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