2010年1月7日木曜日

上田秀人「密封 奥右筆秘帳」

歯応え十分な作品
 
 上田秀人の「密封 奥右筆秘帳」(講談社文庫)を読む。

 横浜駅東口・そごう横浜7階にある「紀伊国屋書店」は馴染みの本屋で、近所なので週1程度の頻度で覗(のぞ)く。文庫を中心に、気に入った本を1,2冊買う。一度にたくさんは買わない。なぜなら、本屋に行くことが趣味みたいもので、読み終わった後にさて次はなにを読もうか、その都度選ぶ過程が楽しみなのだ。
 上田秀人の本は初めて読むが、以前から気になっていた。「奥右筆秘帳」という文庫書下ろしシリーズが、
・密封 
・国禁 
・浸蝕 
・継承
と4冊も並んでいる。佐伯泰英、鳥羽亮など文庫の時代小説シリーズを抱える作家は売れ筋で、それはとりもなおさず“シロイヌ”と睨んでいた。

×  ×  ×

 徳川11代将軍家斉の時世。歴史的には“オットセイ将軍”の異名を持ち53人の子供を儲け、将軍在任50年の最長記録を持つ御仁である。田沼意次の重商主義政治が終ったのち、その反動から倹約を旨とする「寛政の改革」を実施した松平定信もまた老中職を降りた時代が物語の背景となっている。
 江戸城の公文書類決裁に関わる奥右筆組頭の立花併右衛門は、権勢を誇った田沼意次の孫・意明(おきあき)の死亡届をみて、12年前に殿中で若年寄・意知(おきとも)が旗本・佐野善左衛門に刺殺された事件に疑惑をはさむ。その夜城から麻布箪笥町の屋敷の帰り途、何者かに併右衛門は襲われる。生命の危機を感じた併右衛門は、涼天覚清流の剣術遣いで隣家に住む柊(ひいらぎ)家の次男、衛悟(えいご)に護衛を頼む。二人は幕政の闇に巻き込まれていく――。
 併右衛門の気丈で美人な一人娘瑞紀(みずき)、徳川将軍家斉、政治に口出しする家斉の実父・一橋民部卿治済(はるさだ)、閑職となった松平越中守定信、大太刀を遣う居合の達人・冥府防人など魅力的な登場人物が、併右衛門と衛悟にからむ。

×  ×  ×

 文庫カバーに書かれた筆者紹介によると、上田秀人は1959年大阪府生まれ。大阪歯科大学卒。府下で歯科医院を開業する歯医者さんだそうだ。さすがに『歯応えのある作品』に仕上がっている(笑)。
2010年1月6日読了密封<奥右筆秘帳> (講談社文庫)

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