与力の妻で元柳橋芸者
高橋克彦の「おこう紅絵暦」(文春文庫)を読む。シロイヌである。
北町奉行筆頭与力、仙波一之進の妻で、元柳橋芸者のおこうが、舅の左門、絵師の春朗、仙波が使っている小者の菊弥らの力を借りて、江戸の街に起った事件を解く。美人で賢い、粋なおこうが魅力的だ。
短編連作12編が収められている。
・願い鈴
・神懸かり
・猫清
・ばくれん
・迷い道
・人喰い
・退屈連
・熊娘
・片腕
・耳打ち
・一人心中
・古傷
まずは「ばくれん」(莫連)の意味は? 手元のデジタル大辞泉で引くと、「すれてずるがしこいこと、そのような女性、あばずれ、すれっからし」とある。おこうはばくれん上がりだ。芸者になる前の十四、五のころ、女だてらに酒を飲み、役者まがいの派手な化粧に革草履の腕まくりで、徒党を組んで闊歩していた不良少女のころの物語。
「迷い道」は、なに不自由のない楽隠居ながら、気鬱に襲われる左門の話。草野も共感できる心境である。
「古傷」では、おこうの昔の男が明るみになる。一之進の心の広さが男だねぇ。
「この世にゃ男と女しかいねぇんだ。互いにいろんな相手と知り合って当たり前。今はこうしておれとおめぇが居る」。一之進がおこうの肩に手を添える。嬉しさにおこうは嗚咽する。ぐっとくる場面だ。
× × × 「だましゑ歌麿」が前編にあたるそうだ。「春朗合わせ鏡」は姉妹編。実は知らなかった。「だましゑー」では千に一つの目こぼしがない同心、仙波一之進が主人公で、おこうと出逢う。売れない絵師の春朗はのちの葛飾北斎だそうだ。浮世絵に造詣の深い高橋克彦らしい登場人物の設定だ。順序が逆になったが、「だましゑ歌麿」を俄然読んでみたくなった。
2009年9月11日読了
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