昭和32年・33年編
石原裕次郎(1934年―1987年)を1957年から1598年にかけて特集する。
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導火線に火がついた。巨大な爆弾が弾ける予感がした。
石原裕次郎ブームは1957年・昭和32年から始まる。同年9本の映画に出演している。
・お転婆三人姉妹・踊る太陽(日活・井上梅次監督)=ペギー葉山、芦川いづみ
・ジャズ娘誕生(日活・春原政久監督)=江利チエミ、青山恭二
・勝利者(日活・井上梅次監督)=三橋達也、北原三枝
・今日のいのち(日活・田坂具隆監督)=北原三枝、津川雅彦
・幕末太陽伝(日活・川島雄三監督)=フランキー堺、左幸子
・海の野郎ども(日活・新藤兼人監督)=殿山泰司、西村晃
・鷲と鷹(日活・井上梅次監督)=三國連太郎、浅丘ルリ子
・俺は待ってるぜ(日活・蔵原惟繕監督)北原三枝、二谷英明
・嵐を呼ぶ男(日活・井上梅次監督)北原三枝、芦川いづみ
「嵐を呼ぶ男」は昭和32年の12月歳末に正月映画として封切りしたので、昭和33年に観た人が多かったろう。裕次郎というマグマが弾け、列島を揺るがす大爆発を起こしたのは翌33年を待つことになる。
「狂った果実」(昭和31年)で主役の座に就いた裕次郎は、「太陽族」のイメージが重なり、その不良性が若者の心を捉えた。上原謙(1909年―1991年)のような従来の端正な顔立ちの二枚目と違い、八重歯に短髪、鋭い目に輝きを放ち、やたら足の長い男が銀幕に現れると、溜め息と羨望が館内に満ちるのだった。
「勝利者」はボクサー役で、北原三枝の役名は「白木真理」だったと記憶する。白木マリはこれを芸名としたという。「幕末太陽伝」は川島雄三監督作品で高い評価がある名画だが、主役は居残り佐平次役のフランキー堺で、裕次郎は高杉晋作役で登場する。
「俺は待ってるぜ」はスチール写真が秀逸だ。夜霧の波止場で、白いトレンチコートの襟を立て、舫杭に片足をのせ佇む姿をローアングルで足の長さを強調して撮った写真だが、裕次郎のポーズは実に決まっている。脚本は石原慎太郎。
裕次郎をスーパースター・カリスマにしたのは「嵐を呼ぶ男」である。ドラマーの国分正一の裕次郎は格好よかったなぁ。渡辺プロの渡辺美佐をモデルにしたといわれる辣腕の女マネジャー役に北原三枝。恋敵でドラム合戦をするチャーリー桜田役にジャズ歌手の笈田敏夫という配役だった。暴漢に襲われ手を怪我した主人公が、ドラムを叩けなくなり、マイクを引き寄せ唄う。
♪おいらはドラマー やくざなドラマー
ドラム合戦のクライマックス――その瞬間、裕次郎の颯爽たる様に衝撃を受け身震いした。映画館を出る草野球音は裕次郎になり切っていた。
裕次郎ブーム頂点の1958年・昭和33年映画作品
・夜の牙(日活・井上梅次監督)=月丘夢路、浅丘ルリ子、森川信
・錆びたナイフ(日活・舛田利雄監督)=北原三枝、小林旭、宍戸錠、杉浦直樹
・陽のあたる坂道(日活・田坂具隆監督)=北原三枝、千田是也、小高雄二、川地民夫
・明日は明日の風が吹く(日活・井上梅次監督)=北原三枝、金子信雄
・素晴らしき男性(日活・井上梅次監督)=北原三枝、月丘夢路、白木マリ
・風速40米(日活・蔵原惟繕監督)=北原三枝、渡辺美佐子、川地民夫
・赤い波止場(日活・蔵原惟繕監督)=北原三枝、中原早苗、大坂志郎
・嵐の中を突っ走れ(日活・蔵原惟繕監督)=北原三枝、市村俊幸、白木マリ
・紅の翼(日活・中平康監督)=芦川いづみ、中原早苗、二谷英明
「夜の牙」は遺産相続を巡るサスペンスで、犯人は意外や和尚役の森川信であった。「錆びたナイフ」は石原慎太郎の脚本で、杉浦直樹とのアクションシーンの迫力が凄かった。「素晴らしき男性」は裕次郎には珍しいミュージカル映画。「風速40米」は、ワイシャツをボタンで締めず胸下で縛ったファッションが人目を惹いた。「赤い波止場」はピストル名手で“左射ちの二郎”役、白いスーツ姿の格好よさにしびれたねぇ。「紅の翼」は八丈島の破傷風の患者に血清を届けるパイロット役で、セスナにギャングの二谷英明が乗り合わせるストーリーだったと記憶する。
「陽のあたる坂道」は石坂洋次郎原作で、異父兄弟役の川地民夫のデビュー作。川地は神奈川県逗子の裕次郎の近所に住んでいた縁で出演したという。石坂洋次郎(1900年―1986年)作品は多い。「乳母車」(1956年=田坂具隆監督)で始まり、「若い川の流れ」(1959年=田坂具隆監督)、「あじさいの歌」(1960年=滝沢英輔監督)、「あいつと私」(1961年=中平康監督)、「若い人」(1962年=西河克己監督)と6本も演じている。「あいつと私」と「若い人」は吉永小百合との共演作品である。
瞼の裏で裕次郎の赤い大輪が咲き誇っている。
歌謡曲の世界でも、裕次郎ブームは昭和32年・33年、列島を席捲した。
前年「狂った果実」(石原慎太郎作詞・佐藤勝作曲)で歌手デビューした石原裕次郎は、昭和32年ヒット曲を連発した。「俺は待ってるぜ」(石崎正美作詞・上原賢六作曲)「錆びたナイフ」(萩原四郎作詞・上原賢六作曲)で、ともに曲が売れ映画化となった。「錆びたナイフ」(日活・舛田利雄監督)は翌1958年(昭和33)の上映。
昭和33年のヒット曲は「嵐を呼ぶ男」(井上梅次作詞・大森盛太郎作曲)、「鷲と鷹」(井上梅次作詞・萩原忠司作曲)、「風速40米」(友重澄之介作詞・上原賢六作曲)、「口笛が聞こえる港町」(猪又良作詞・村沢良介作曲)がある。
歌う映画スターの先輩には高田浩吉(1911年―1998年)、鶴田浩二(1924年―1987年)がいるが、裕次郎以降に日活では主演俳優が主題歌を吹き込むことが定着した。小林旭、赤木圭一郎(1939年―1961年)が裕次郎に続くことになる。
※蜘蛛巣丸太「草野球音備忘録」では人物名の敬称を省略しています。文章中で「主」の記憶違い・事実誤認・赤字などがありましたら、ご指摘くだされば幸いです。
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