2007年12月20日木曜日

瞼の裏で咲いている1956

昭和31年編

 この歌は変わっているぞ。と、子供心に思ったものだ。
 ♪でしゃばりお米(よね)に手を引かれ
と歌った鈴木三重子(1931年―1987年)の「愛ちゃんはお嫁に」という歌謡曲である。1956年・昭和31年、作詞は原俊雄、作曲は村沢良介の手で世に出てヒットした。鈴木三重子は同年のNHK紅白歌合戦に出場している。

 花嫁さんは「愛ちゃん」で、婿さんは「太郎」という。文金高島田に白無垢の愛ちゃんの手を引いて先導するのは、「お米」という。どうやら近所のおばさんで、「でしゃばり」ときた。歌詞のなかで固有名詞が特定されるリアルさと面白さが、妙に印象的だった。
 
 歌舞伎の演目、青砥稿花紅彩画(白浪五人男)を題材とした「弁天小僧」(1955年)をヒットさせた三浦洸一の「東京の人」(1956年)も気になった。
 ♪並木の雨の トレモロの
おい、「トレモロ」ってなんだよ?

 当時知らないままにほったらかしにしていたものを、今頃になってデジタル大辞泉(三省堂)で引く。

トレモロ<イタリアtremolo>同音または異なる2音を、急速に反復させる奏法。主に弦楽器で行う。震音。

 歌詞を読むと、東京=都会の女が恋に悩む姿が浮かぶ。銀座のカフェのテラスで小雨に打たれながら、雨音を聴いている。恋に忍び泣いているのだ。作詞は佐伯孝夫、作曲は吉田正の都会派歌謡である。
 50年来の疑問が氷解した(笑)。

 佐伯―吉田コンビは同年、「哀愁の街に霧が降る」(山田真二・唄)=2007年10月26日の項=を出している。

 美空ひばり(1937年―1989年)の「波止場だよお父つぁん」は名曲だと、思った。年老い目が見ない父の手を引く健気な娘。父は元マドロスで、海の郷愁を忘れられない。ハマっ子のひばりの情感たっぷりの歌唱にしびれたものだが、いつしか歌わなくなってしまった。
 どうしたのものだろうか?
 この疑問はすぐに解決した。放送コードに歌詞がひっかかり歌えなくなったと教えてもらった。目の不自由な人を指す差別表現が1番の歌詞にあったのだ。

 作曲は船村徹で、問題の作詞をしたのは西沢爽(1919年―2000年)であった。西沢は島倉千代子の「からたち日記」、美空ひばりの「ひばりの佐渡情話」、小林旭の「さすらい」などを作詞している。放送されない名曲である。

 前年デビューした三橋美智也(1930年―1996年)と島倉千代子が1956年に、ヒット曲を連発した。「おんな船頭唄」で世に出た三橋は「リンゴ村から」(矢野亮作作詞・林伊佐緒作曲)「哀愁列車」(横井弘作詞・鎌多俊與作曲)、「この世の花」の島倉は「逢いたいなぁあの人に」(石本美由紀作詞・上原げんと作曲)、「東京の人さようなら」(石本美由紀作詞・竹岡信幸作曲)を出しスター歌手街道を突っ走った。
 「哀愁列車」に出てくる
 ♪未練心につまづいて
という歌詞は巧い表現だと、ませたガキの球音は感じ入った。

 1955年デビュー組には大津美子もいた。「東京アンナ」で歌唱を印象付けた大津は結婚式の定番「ここに幸あり」(高橋掬太郎作詞・飯田三郎作曲)をヒットさせた。
 女の強さを歌ったコロムビア・ローズの「どうせひろった恋だもの」(野村俊作詞・船村徹作曲)、曽根史郎の「若いお巡りさん」(井田誠一作詞・利根一郎作曲)、青木光一の「早く帰ってコ」(高野公男作詞・船村徹作曲)などのメロディがラジオから流れていた。

 前年後半期の芥川賞を獲得した石原慎太郎の小説「太陽の季節」が映画化された。日活製作で古川卓也監督、長門裕之が主演している。この映画で原作者の慎太郎の弟、石原裕次郎がデビューし、「狂った果実」(日活・中平康監督)では主演を果している。アロハシャツにサングラスで湘南を闊歩した「太陽族」、短髪の「慎太郎刈り」など流行語になった。
 その他の映画では、竹山道雄の小説の映画化「ビルマの竪琴」(日活・市川崑監督)=三國連太郎、安井昌二出演、「夜の河」(大映・吉村公三郎監督)=山本富士子出演、「赤線地帯」(大映・溝口健二監督)=京マチ子出演、「猫と庄造と二人のをんな」(東京映画=東宝・豊田四郎監督)=森繁久弥出演、などがある。
 
 1956年・昭和31年はオーストラリアでメルボルン五輪が開催された。南半球初のオリンピックであった。日本は4つの金、10個の銀、5個の銅メダルを獲得した。
 “潜水泳法”の古川勝が男子競泳200M平泳ぎで金メダルに輝いた。その後、潜水泳法は国際水泳連盟のルール改正で禁止された。その他の金メダリストは、小野喬(男子体操・鉄棒)、池田三男(レスリング・フリースタイル・ウェルター級)、笹原正三(レスリング・フリースタイル・フェザー級)。笹原は強かったなぁ。
 惜しくも銀メダルとなったが、山中毅が男子競泳400Mと1500Mで、地元オーストラリアのマレー・ローズと競り合ったのが印象的だった。

 プロ野球ではセ・リーグが読売ジャイアンツ、パ・リーグが西鉄ライオンズはリーグ優勝し、日本シリーズは西鉄が4勝2敗で制した。 シリーズMVPは豊田泰光(西鉄)だった。

・昭和31年の主な個人タイトル=セ・パ
最優秀選手=別所毅彦(巨人)・中西太(西鉄)
新人王=秋山登(大洋)・稲尾和久(西鉄)
首位打者=与那嶺要(巨人)・豊田泰光(西鉄)
本塁打王=青田昇(大洋)・中西太(西鉄)
打点王=宮本敏雄(巨人)・中西太(西鉄)
最優秀防御率=渡辺省三(大阪)・稲尾和久(西鉄)
最多勝=別所毅彦(巨人)・三浦方義(大映)
最優秀勝率=堀内庄(巨人)・植村義信(毎日)

 高校野球は春の選抜大会が中京商(愛知)、夏の選手権大会は平安(京都)が大旗を握った。春夏ともに準優勝の岐阜商の左腕・清沢忠彦(慶応大)の投球が光った。

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※蜘蛛巣丸太「草野球音備忘録」では人物名の敬称を省略しています。文章中で「主」の記憶違い・事実誤認・赤字などがありましたら、ご指摘くだされば幸いです。

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