2009年10月10日土曜日

高橋克彦「京伝怪異帖」

どっこい生きていた源内

 高橋克彦の「京伝怪異帖」(文春文庫)を読む。「だましゑ歌麿」に端を発した「だましゑシリーズ」の姉妹編である。
 伝蔵こと山東京伝が、風来山人・平賀源内や兄貴分の絵師・安兵衛(窪俊満)、女より美しい若衆髷(わかしゅわげ)の蘭陽と組み奇怪な事件に挑み、謎を解く。
・天狗髑髏(てんぐどくろ)
・地獄宿
・生霊変化(いきりょうへんげ)
・悪魂(あくだま)
・神隠し
連作5編で構成されている。

 史実による平賀源内が獄死したといわれる安永8年(1780年)12月18日、吉原で源内死去のニュースを聞きつけた伝蔵は不審を抱き、その通夜に出向くところから小説の舞台が開く。伝蔵は山東京伝として売り出す前の19歳。田沼意次の権勢そして没落、やがて松平定信の寛政の改革へと、連作は読み進むうちに時代背景も推移する。
 出版プロデューサーの蔦屋重三郎や勝俵蔵と名乗った若き日の鶴屋南北など歴史上の人物が登場し絡む。
 また、伝蔵が武器に“糸印”(いといん)を使うのも、銭形平次の投銭のようで面白いアイデアである。安兵衛が吉原で女たちに説明する件がある。
「伝兄ぃはそいつを空に飛ばして雀ぐれえは簡単に落とすぜ。武士(さむれえ)なんぞの刀よりずっと恐ろしい。優男に見えるだろうが、並の男じゃかなわねえ」
×  ×  × 「糸印」をデジタル大辞泉で引くと、
「室町時代、明から輸入した生糸の荷に添えて送られてきた鋳銅製の印章。斤量を検査し、これで押印した受領証書を送り返した。形は方形・円形・五角形などがあり、つまみは人物や動物の形をしている。形状・字体ともに風雅に富む」とある。
×  ×  × 安永8年、大名屋敷の修理を請け負った源内は自宅で棟梁2人と酒を飲んだ。夜中に便所に起き、懐に入れた修理計画書がないことに気づく。盗まれたと思い、大工に詰め寄り押し問答となり、激高し2人を殺傷してしまう。盗まれたのは勘違いで計画書は帯の間に挟まれていたのだった。
 投獄されたのち上記の日に小伝馬町で獄死したと史実ではなっているが、生き延び天寿を全うしたという説もある。この小説では、死んだのは偽装でどっこい生きていた!と生存説を採っている。 山東京伝のブレーンとして活躍するのである。
 源内は男色家としても知られ、生涯妻帯しなかった。彼に付き添う蘭陽は陰間上がり。果たして、二人の関係はどうなのだろうか。
2009年10月9日読了

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