*休職中の刑事が謎の美女を追う。
宮部みゆきの「火車」(新潮文庫)を読む。
強盗犯の逮捕時に撃たれ負傷し、休職中の刑事・本間俊介のもとに、亡くなった妻の親戚で銀行員の栗坂和也から厄介な頼みごとが持ち込まれた。失踪した婚約者・関根彰子を探してほしいとの依頼だった。
休職中で公に刑事を名乗れない本間が捜査を始めた。彰子の勤め先で履歴書をみて、彰子の美貌に驚いた。仕事もそつがないという。次に自己破産の手続きをした弁護士を訪ねると、水商売をしており顔の特徴は八重歯だという。会社と弁護士事務所での彼女の容貌や性格に、本間は違和感を抱いた……。
登場人物
・本間俊介:休職中の捜査一課刑事
・本間智:本間の息子
・井坂恒男:本間の隣人
・碇貞夫:本間の同僚刑事
・栗坂和也:本間の遠縁の銀行員
・関根彰子:自己破産した女性
・新城喬子:偽の関根彰子。
・本多保:彰子の幼なじみ
× × ×
これぞ本格派の傑作ミステリーです。
最近、軽い筆致の推理モノ「謎解きはディナーのあとで」(東川篤哉)や「ビブリア古書堂の事件手帖」(三上延)などを読んでいますが、それらと比較して骨太で重厚です。
これは、きっと社会背景から来ていると思います。
「火車」は1992年バブル崩壊時の作品です。消費者金融やカード破産が社会問題化したころ。小説でも、都会生活に夢抱きカード破産した独り暮らしの女性、マイホームを夢見てローン地獄となり一家離散した家族、借金に追いたてられ婚家を去った女性――文字通り借金に『火の車』の人たちが描かれています。そこには時代が活写されているのですな。
タイトル「火車」は「かしゃ」と読みます。冒頭に「火がもえている車。生前に悪事をした亡者をのせて地獄に運ぶという。ひのくるま」と説明がありました。出典は室町前期の私家集の「拾玉集」だそうです。
井坂が本間に「火車」の古歌を引用し語っているシーンがあります。
――「火車の、今日は我が門を、遣り過ぎて、巡りゆくらむ」
1993年山本周五郎賞受賞。
2011年12月12日読了
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