緒方洪庵と種痘
築山桂の「緒方洪庵 浪華の事件帳」の第2弾『北前船始末』(双葉文庫)を読む。
前作の「禁書売り」同様に4つの話からなる連作。
・第一話「神道者の娘」
・第二話「名目金貸し」
・第三話「北前船始末」
・第四話「蘭方医」
表題をとった「北前船始末」がシロイヌ。緒方章(後の洪庵)が北前船の抜け荷をめぐる事件に巻き込まれる。船頭・卯之助が松前から荒波を越え大坂に連れてきた少女・おゆきの身にある秘密が隠されていた。
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緒方洪庵の功績に、大村益次郎、福澤諭吉らの人材育成と並んで種痘の普及がある。
江戸時代にはあばた顔の人が多かった。「あばた」とは、疱瘡(天然痘)に罹った人にできる斑点をさした言葉で、天然痘は当時最も恐れられていた病のひとつだった。天然痘を予防し、患っても軽い症状ですむ接種法を種痘といい、牛痘種痘法による種痘を開発したのは、英国のエドワード・ジェンナーEdward Jenner(1749年―1823年)だった。1796年のことだった。
日本で種痘を一番初めに成功させたのは、遅れること50年、嘉永2年(1849年)、長崎でフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796年―1866年)に直接指導を受けた佐賀藩医の楢林宗建(ならばやし・そうけん1802年―1852年)だった。その種痘を日本に広めたのが洪庵である。
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第三話「北前船始末」では、種痘の問題を取り上げている。20歳の緒方章が、種痘に興味を持つ発端を描いている。修業時代の章から、後の洪庵の業績を結びつけた作者の着想が読ませる。
章と、男装の麗人・左近の恋の行方はどうなるのだろうか。それにしても、左近のキャラクターは実に魅惑的である。
2009年5月19日読了
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