2011年1月23日日曜日

志水辰夫「行きずりの街」

20年前の作品も褪せない魅力
 志水辰夫の「行きずりの街」(新潮文庫)を読む。1990年(平成2年)に刊行。1992年の「このミステリーがすごい」の第1位作品。2010年11月に仲村トオル主演で映画化された。

 郷里の丹波で塾教師をしている波多野は、音信不通になった教え子の広瀬ゆかりを探しに、12年ぶり上京した。ゆかりの祖母が危篤状態となったことを彼女に知らせるためだった。かつて名門・敬愛学園の教師をしていた波多野は、生徒の雅子との恋愛がスキャンダルとなり学園を追放された過去を持っていた。ゆかり探しの過程で、意外にも追放した学園が彼女の失踪に関係していることを掴む。闇の真相に彼は迫って行く……。

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映画「行くずりの街」(監督・阪本順治)のキャスト
・波多野和郎:仲村トオル
・手塚雅子:小西真奈美
・広瀬ゆかり:南沢奈央

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「行きずりの街」が刊行されたのは、1990年。20年も前の作品なのだよね。

 バブル景気の時代でした。
 1989年12月29日大納会、日経平均株価は3万8957円44銭を記録した。とんでもない数字でしたっけ。史上最高値だったのでした。
 あれはあだ花でした。日本経済は以後、凋落し、この20日の中国が発表した名目国内総生産(GNP)は約514兆円になり、日本の名目GNPは2月に発表となりますが、約480兆円程度が予想されていて、中国に抜かれることが確実になりました。1968年から日本が守り続けていた「世界第2位の経済大国」の座を明け渡すこととなりました。

 動乱の20年。隔世の感がします。
 色褪せた日本経済ですが、小説「行くずりの街」はいささかも鮮度・魅力が失せていません。いや、立派ですなぁ。
――雅子はわたしのすべてだった。いつだってかぐわしく、温かく、やわらかくて、しなやかで、強靭で、無限だった。それはなによりもすべすべした感触であり、過敏で、貪婪(どんらん)で、疼きやまない官能を持っていた。――
 12年ぶりで再会した元妻の雅子を、波多野が抱く場面の描写です。
 志水辰夫の瑞々しい美麗な文体に魅せられました。
2011年1月22日読了

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