2007年11月27日火曜日

点と線&上海帰りのリル

 松本清張原作のテレビドラマ化「点と線」を観る。ビートたけし主演で、2007年11月24日(土)と25日(日)に連続で放送された。多彩な配役、テレビドラマとしてはお金をかけたであろうセットなど見所もあり、面白かった。
 
 1958年(昭和33)東映で製作された映画「点と線」(小林恒夫監督)を観たことがある。松本清張の原作は1957年から1958年にかけて雑誌「旅」に連載され、1958年に光文社から刊行された。本が世に出て直後に売れ映画化されたもので、当時の推理小説人気、清張ブームを反映させている。
 
 映画とテレビの配役
・加藤   嘉 (鳥飼刑事) ビートたけし
・南    廣 (三原刑事) 高橋 克典
・山形   勲 (安田辰郎) 柳葉 敏郎
・高峰三枝子 (安田亮子) 夏川 結衣
と、映画の主演は高峰三枝子で、テレビドラマはビートたけし、というビッグネームのキャストにもその意図がうかがえる。ちなみに南廣は、元ジャズドラマーで「警視庁物語」などに出演した二枚目俳優である。

 鳥飼刑事役のたけしが太平洋戦争の体験を自ら語り、焼夷弾の破片を右肩に残し消せぬ過去を背負った象徴的なシーンとして、「上海帰りのリル」を歌っていた。テレビ独自の脚色である。
 ♪海を見つめていた
 ハマのキャバレーにいた

 「上海帰りのリル」は1951年(昭和26)の津村謙(1923年―1961年)のヒット曲である。作詞は東条寿三郎、作曲は渡久地政信。津村は端正な顔立ちに、滑らかで心地よい歌声は「天鵞絨(ビロード)」と形容され人気があったという。
 この曲は子供もころからよく聴いていたが、疑問があった。
 2番の歌詞に、
 ♪夢の四馬路の 霧降る中で
 何も言わずに 別れた瞳
とあるが、「四馬路」(スマロ)とは何ぞや? 
 
 また、戦前からのスター歌手、ディック・ミネ(1908年―1991年)のヒット曲に「夜霧のブルース」*がある。
 1947年(昭和22)島田磬也作詞・大久保徳二郎作曲の作品にも、1番の歌詞に、
 ♪夢の四馬路か
 ホンキュの街か
と「四馬路」が登場する。

 「四馬路」とは上海の道路で、現在の「福州路」のことだそうだ。中国では「馬路」とは馬車が通れる大きな通りをいい、上海で最も大きな道路は「南京路」で、昔は「大馬路」といったそうな。南京路から南に四番目の通りということで「四馬路」と呼ばれた。
 
 では、ついでに「ホンキュの街」の「ホンキュ」って何だろう?
 ホンキュは「虹口」(ホンコウ)のことで、その昔、日本人は「ホンキュ」といっていたそうだ。虹口は日本人居留地(日本租界)である。
 
 歴史を紐解けば、アヘン戦争後の1842年南京条約により開港され、イギリス、フランスなど列強の租界が出来た。以来、上海は世界へ向け窓口を開いた街となった。
 1985年(昭和60)に上海に滞在したことがある。当時の中国は貧しく、現在の経済発展の象徴のような摩天楼が乱立する姿はなかったが、古いが堂々たる威容を誇るビルが見られ国際都市の往時を忍ぶ佇まいであった。
 そのとき「四馬路」も「ホンキュ」も忘れて遊び呆けていた。ただただ恥じ入るばかりである。

夜霧のブルース:松竹映画「地獄の顔」の主題歌。主演は水島道太郎で、ディック・ミネも共演している。

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