2009年9月11日金曜日

高橋克彦「おこう紅絵暦」

与力の妻で元柳橋芸者

 高橋克彦の「おこう紅絵暦」(文春文庫)を読む。シロイヌである。
 北町奉行筆頭与力、仙波一之進の妻で、元柳橋芸者のおこうが、舅の左門、絵師の春朗、仙波が使っている小者の菊弥らの力を借りて、江戸の街に起った事件を解く。美人で賢い、粋なおこうが魅力的だ。
 短編連作12編が収められている。
・願い鈴
・神懸かり
・猫清
・ばくれん
・迷い道
・人喰い
・退屈連
・熊娘
・片腕
・耳打ち
・一人心中
・古傷

 まずは「ばくれん」(莫連)の意味は? 手元のデジタル大辞泉で引くと、「すれてずるがしこいこと、そのような女性、あばずれ、すれっからし」とある。おこうはばくれん上がりだ。芸者になる前の十四、五のころ、女だてらに酒を飲み、役者まがいの派手な化粧に革草履の腕まくりで、徒党を組んで闊歩していた不良少女のころの物語。
 「迷い道」は、なに不自由のない楽隠居ながら、気鬱に襲われる左門の話。草野も共感できる心境である。
 「古傷」では、おこうの昔の男が明るみになる。一之進の心の広さが男だねぇ。
「この世にゃ男と女しかいねぇんだ。互いにいろんな相手と知り合って当たり前。今はこうしておれとおめぇが居る」。一之進がおこうの肩に手を添える。嬉しさにおこうは嗚咽する。ぐっとくる場面だ。
×  ×  × 「だましゑ歌麿」が前編にあたるそうだ。「春朗合わせ鏡」は姉妹編。実は知らなかった。「だましゑー」では千に一つの目こぼしがない同心、仙波一之進が主人公で、おこうと出逢う。売れない絵師の春朗はのちの葛飾北斎だそうだ。浮世絵に造詣の深い高橋克彦らしい登場人物の設定だ。順序が逆になったが、「だましゑ歌麿」を俄然読んでみたくなった。
2009年9月11日読了

2009年9月8日火曜日

それは横浜から始まった

福澤諭吉と神奈川展

 安政6年(1859年)、若いサムライが横浜に現れた。
 前年に5カ国(米・英・仏・蘭・露)と徳川幕府との間で締結された修好通商条約により、函館、新潟、横浜、神戸、長崎の五つの港が開かれた。横浜はそのひとつであった。開港地には貿易をもくろむ外国人がやってきた。港の周辺ににわかに街ができた。とりわけ東海道の宿場・神奈川から離れた寒村を開港場とした横浜は、その様変わりは急だった。
 大坂・適塾で蘭学を学びオランダ語に堪能だった彼は、早速腕試しを試みたが、話は通じない。言っていることはわからない。街の看板は読めなかった。
 英語ショック――。蘭学の知識から世界で広く英語が使われていることは知っていた彼は、オランダ語でなく英語の時代だと体感したのだった。横浜から江戸に戻り、英語の猛勉強を始めた。
 そのサムライこそ、24歳の福澤諭吉であった。
×  ×  ×
 横浜・馬車道の神奈川県立歴史博物館で開催されている特別展「福澤諭吉と神奈川」(2009.8.22~9.23)を観る。慶応義塾創立150周年、横浜開港150周年のアニバーサリーにあたり、福澤諭吉と神奈川県、横浜市とのかかわりに焦点をあてた展覧会である。
 日吉や湘南藤沢キャンパスなど神奈川県と関係の深い福澤コネクションが興味深い。横浜正金銀行、横浜商業高校(通称Y校)、書店の丸善、箱根の富士屋ホテルの創業・創立に際し、政財界、教育界に尽力した諭吉の姿がうかがわれ、面白かった。
・中村道太(横浜正金銀行の初代頭取)
・早矢仕有的(書店丸善を横浜で創業)
・山口仙之助(箱根・富士屋ホテル創業者)
・美沢進(横浜商業の初代校長)
 上記は、福澤の門人たちだった。
 神奈川県立歴史博物館は、横浜正金銀行として1900年(明治33年)に着工、1904年に完成した建物を利用している。1969年(昭和44年)「旧横浜正金銀行本館」として国の重要文化財、1995年(平成7年)に国の史跡に指定されている。
*「ヴ」考案は福澤諭吉(2008年7月29日記)
×  ×  ×
 蛇足ながら……。
 館内の喫茶ルームに昼食に入ってビックリです。甘口のカレーにポテトサラダ、食後にコーヒーが付いて700円という安さでしたよ。
2009年9月8日観覧 

2009年9月4日金曜日

トリノが誇る美の遺産


エジプト・コレクション120点

 東京・上野の東京都美術館で開催されている「トリノ・エジプト展―イタリアが愛した美の遺産―ANCIENT EGYPT in TORINO」(2009.8.1~10.4)を観る。 
 カイロのエジプト博物館、ロンドンの大英博物館、パリのルーヴル美術館、ベルリン・エジプト博物館、ニューヨーク・メトロポリタン博物館に比肩する世界有数のエジプト・コレクションを誇るイタリアのトリノ・エジプト博物館の所蔵品を展示している。同館は19世紀、ナポレオンのエジプト遠征に従軍し、フランスのアレクサンドリア総領事になったベルナルド・ドロベッティの収集品を中心に創設された。3万数千点の所蔵品から、大型彫像、ミイラ、彩色木棺、パピルス文書、ステラ(石碑)、アクセサリーなど約120点を紹介している。
 展示構成は、
・第1章:トリノ・エジプト博物館
・第2章:彫像ギャラリー
・第3章:祈りの軌跡
・第4章:死者の旅立ち
・第5章:再生への扉
となっている。
 半可通の草野的には、「アメン神とツタンカーメン王の像」「イビの石製人型棺の蓋」などが見こたえがあった。
×  ×  ×
 蛇足ながら……。
 トリノといえば、2006年の冬季五輪が開催されたイタリア北西部、フランスに近接した都市です。フィギュアスケートで荒川静香が金メダルを獲得したよね。日本選手はそろって不振でしたが、ひとり気を吐いたのを記憶しています。得意技の「イナバウアー」は流行語になりました。あれから3年余の歳月が過ぎているのですよね。
・「海のエジプト展」クレオパトラが愛した都=2009.7.10記
2009年9月3日観覧

2009年9月3日木曜日

居眠り磐音「侘助ノ白」

いよいよ安永8年に
 佐伯泰英の“居眠り磐音江戸双紙シリーズ第30弾「侘助ノ白」”(双葉文庫)を読む。
 ドラマティックな「陽炎ノ辻」から始まったシリーズも数えて30巻目、よくぞ続いていると感心する。さすがにネタに苦労している感は否めないが、佐伯泰英の読ませる技術・筆力はさすが、だなぁ。
 今回は年の瀬から正月にかけての江戸と土佐の高知の2元中継。でぶ軍鶏こと重富利次郎が土佐藩近習目付の父、百太郎と土佐入りして藩政改革を巡る騒動に巻き込まれる。利次郎の剣士として成長が描かれる。今後、霧子とのロマンスの進展がありそうな雲行き。
 江戸・神保小路の尚武館道場では新キャラの登場となる。富田天信正流槍折れの小田平助が門下(門番)として迎えられる。下士上がりの棒術の名人で、歳のころは44、45歳の苦労人、これからの活躍が見られそう。
 物語の本題である次期将軍とされる西の丸(家基)を巡る動きは、田沼意次の嫡男、意知の放った伊皿子風也を筆頭する五人組が尚武館に道場破りに現れるが、新参の小田平助が先陣を切り2人を打ち破りすごすご退散する、というごく軽く触るだけだった。
 そして、クライマックスともいえる安永8年(1779年)の年が明けた……。

磐音シリーズ
・第29弾「冬桜ノ雀」2009・5・7記
・第28弾「照葉ノ露」2009・1・29記
・第27弾「石榴ノ蠅」2008・10・4記
2009年9月1日読了