2010年3月31日水曜日

ポンペイ展:横浜美術館

2000年前に給湯設備のある浴室

 およそ2000年もの昔に、大理石の浴槽と給湯システムが備わった浴室があった。ポンペイの人々の豊かな暮らしぶりに仰天した。日本の弥生時代にですぞ。

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 横浜・みなとみらいの横浜美術館で「ポンペイ展―世界遺産 古代ローマ文明の奇跡」(3月20日~6月13日)を観る。

 西暦79年8月24日、ヴェスヴィオ火山が大噴火した。ナポリ湾沿岸の都市ポンペイは一昼夜にして火山灰に埋もれてしまった。当時の姿のまま、1700年の眠りについた。
 18世紀になってポンペイの隣町で偶然に古代の建造物の一部が出土したことから、発掘調査が始まり、栄華を誇った古代都市ポンペイの姿が明らかになっていった。
 ナポリ国立考古学博物館の協力を得て、ポンペイからの出土品など250点を展示している。

構成
プロローグ
Ⅰポンペイ人の肖像
Ⅱ信仰
Ⅲ娯楽
Ⅳ装身具
Ⅴ家々を飾る壁画
Ⅵ祭壇の神々
Ⅶ家具調度
Ⅷ生産活動
Ⅸ饗宴の場
Ⅹ憩いの庭園

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 装飾品や家具調度など現在でも使えるほどに豪華で凝った意匠で、当時のポンペイの生活水準の高さに感心する。
2010年3月30日観覧

2010年3月30日火曜日

三國連太郎と木下恵介

「こころの遺伝子」:ちょいmemo

 1950年(昭和25年)敗戦の影を落とす日本――中国から引き揚げ者、佐藤政雄は路頭に迷っていた。空腹を抱え銀座の三十間堀を眺めていると、見知らぬ男に声をかけられた。
「お兄ちゃん、映画に出てみないか?」
 松竹のプロデューサー小出孝だった。
「飯だけ食わせてくれるなら……」と応じると、翌日オーデションのため辻堂まで連れていかれた。そこは木下惠介の邸宅だった。木下は当時すでに黒澤明と人気を二分する映画監督だった。
 佐藤政雄をひと目で気に入った木下は映画「善魔」の主演を即決した。
「善魔」には、三國連太郎という新聞記者が登場する。

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 ご推察の通り。佐藤政雄はのちの三國連太郎である。こんな偶然の出会いで映画俳優・三國は生まれたのだった。彼はデビュー作の役名を芸名とした。
 素人の三國に木下は「自分の好きなようにやりなさい」と、ことさら演技指導はしなかったという。その「好きなように……」が、以来役者三國のバックボーンになったという話が、3月29日から始まったNHK「こころの遺伝子―あなたがいたから―」で語られていた。司会は西田敏行。二人は映画「釣りバカ」のコンビ。三國のゲストは、新番組の第1回に向けてのサービス人選だろう。
 ちなみに次回ゲストは久本雅美。

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 さらに番組で目を惹いたのは、木下忠司(ただし)が登場して兄の恵介を語っていたことだった。久々に聞く名前だった。忠司はテレビ番組の「水戸黄門」の主題歌を手掛けた作曲家である。
 例のあれだ。
 ♪人生楽ありゃ 苦もあるさ
  涙のあとには 虹も出る
「あヽ人生に涙あり」。作詞は山上路夫。

 映画「喜びも悲しみも幾歳月」は1957年(昭和32年)松竹で木下惠介監督が撮った。灯台守の夫婦役は佐田啓二と高峰秀子だった。主題歌は若山彰が歌いヒットした。その作詞・作曲は木下忠司であった。
 ♪俺ら岬の 灯台守は
  妻と二人で 沖行く船の
  無事を祈って 灯をかざす
 今でも若山彰の声量を生かした朗々とした歌声が耳に残っている。

2010年3月27日土曜日

桜を観れば西行の歌が…

愛犬不在に寂寥の花見

願はくは花の下にて春死なむ その如月(きさらぎ)の望月のころ
春ごとの花に心をなぐさめて 六十(むそじ)あまりの年を経にける
                                       ――西行

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 横浜駅の北東口改札から徒歩10分ほど、幸ヶ谷公園(神奈川区)は知る人ぞ知る桜の名所である。旧東海道の神奈川宿、宮前商店街を見下ろす小高い丘の上に小ぢんまりとした公園が広がる。園内は桜の林になっている。いつもは閑静な佇まいだが、花のころには人が集まる。
 五分咲きだろうか。カミさんと訪れると、花見客がすでに10組余が杯を傾けていた。

 去年は満開のころの花見だった。老犬連れだった。最期の桜かもしれない――予感があり、愛犬のポメラニアンに桜を見せた。彼はこの2月(如月)に老衰で死んだ。15歳だった。今年の桜は見せてやれなかった。桜を前に寂寥の思いがあった。

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「六十あまりの年を経にける」齢アラ還。西行法師の心境が解りはじめてきた、なんて言うつもりはございません。まだまだ草球の心うちには邪念、妄想、煩悩が渦巻いておりますな。

2010年3月26日金曜日

友愛ハトはどこへ行く

カモ・サギ・オウムそれとも

 はじめに断っておく。これはパクリである。引用する。
 TBS昼の情報番組「ひるおび」で、『新聞マエストロ』小森谷徹が「永田町を舞う謎の鳥」の風刺文を取り上げていた。3月26日のことだ。
――日本には謎の鳥がいる。正体はわからない。
   中国から見れば「カモ」に見える。
   米国から見れば「チキン」に見える。
   欧州から見れば「アホウドリ」に見える。
   日本の有権者からは「サギ」と思われている。
   オザワからは見れば「オウム」のような存在。
   でも、鳥自身は「ハト」だと言い張っているようだ。

 在日米軍基地移設や「政治とカネ」問題などで迷走する鳩山政権を皮肉ったジョークが永田町界隈で大流行しているとか。

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「啼くな小鳩よ」と歌ったのは岡晴夫だった。作詞は高橋掬太郎、作曲は飯田三郎。
 ♪啼くな小鳩よ 心の妻よ
  なまじ啼かれりゃ 未練がからむ

「小鳩」は愛しい女性を鳥に譬(たと)えたのだろう。ガキのころ「小鳩」が突然出てくる歌詞が理解できなかった。

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 それにしても、風刺文は言い得て妙、よく出来ているよね。
 確かに友愛ハト、このところの発言は朝令暮改で「カザミドリ」のようだし、「トラスト・ミ―」と言われたオバマ大統領から見れば「ウソ」に見える。

「ハト」は平和のシンボルで、岡晴夫の「啼くな小鳩よ」でもか弱さを表している。イメージ・好感度は高い鳥だ。
「ハト」が日本の「ガン」になっちゃ洒落にならない。

2010年3月21日日曜日

昭和流行歌スキャンダル

新納は正しくは「にいろ」

『昭和』『流行歌』『スキャンダル』と興味を引くキーワードが3つも並ぶ表題に惹かれ思わず買ってしまい、「昭和流行歌スキャンダル」(島野功緒著・新人物文庫)を読む。
 スキャンダルというより、内容はヒット曲誕生にまつわる秘話そして裏話となっている。紹介している名曲は、戦前の「東京行進曲」から50年代の「いい日旅立ち」まで127曲を、年代順に扱っている。

目次と草球の選ぶヒット曲
・第1章:戦前・戦中時代/侍ニッポン・ああそれなのに・旅の夜風
・第2章:昭和20年代/星の流れに・憧れのハワイ航路・青い山脈。お富さん
・第3章:昭和30年代/おんな船頭歌・別れの一本杉・アカシアの雨がやむとき・王将
・第4章:昭和40年代/夢は夜ひらく・ブルーシャト―・おふくろさん・そいて神戸
・第5章:昭和50年代/石狩挽歌・津軽海峡冬景色・ブランデーグラス・舟唄

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「侍ニッポン」の歌詞に登場する『新納鶴千代』は正しくは「にいろ」と読むが、レコーディングの際ルビをふってないため、歌手の徳山璉(たまき)が「しんのう」を歌ってしまったのが、定着したそうだ。作詞・西條八十、作曲は松平信博。
 原作は郡司次郎正(じろまさ)で、幕末の大老・井伊直弼の日陰の子、新納鶴千代が桜田門外で実の父親を斬る話。
2010年3月20日読了昭和流行歌スキャンダル (新人物文庫)

2010年3月19日金曜日

長谷川等伯:国立博物館

さすがの国宝「松林図屏風」
 朝霧の松林に佇んでいる――そんな感覚になる。山に雪が積もっているところをみると季節は冬だろうか。松林は奥深く広がり静寂さと霧の湿潤に包まれている。水墨画の最高峰と言われる「松林図屏風」はさすがに国宝だった。

東京・上野の東京国立博物館で「長谷川等伯―没後400年 特別展」(2月23日~3月22日)を観る。等伯(1539年―1610年)没後400年の節目に、水墨画の「松林図屏風」、金碧障壁画の「楓図壁貼付」など国宝3件、重要文化財作品約30件を含む約80件を紹介している。
 等伯は能登七尾に生まれ、初め信春と名乗り主に仏画を描いていたが、30代に上洛し肖像画、花鳥画にも画風を拡げていった。豊臣秀吉、千利休ら当代の実力者の知遇を得た。狩野永徳と伍す桃山時代を代表する絵師となった。

≪構成≫
・第1章:能登の絵仏師・長谷川等伯
・第2章:転機のとき―上洛、等伯の誕生―
・第3章:等伯をめぐる人々―肖像画―
・第4章:桃山謳歌―金碧画―
・第5章:信仰のあかし―本法寺と等伯―
・第6章:墨の魔術師―水墨画への傾倒―
・第7章:松林図の世界

気に入った作品
・枯木猿猴図:重要文化財
・楓図壁貼付:国宝
・仏涅槃図:重要文化財
・松林図屏風:国宝

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「枯木猿猴図」は手長猿のふわふわとした体毛の柔らかさが伝わってくる。「仏涅槃図」は高さ10メートルほどの迫力ある大作。「楓図壁貼付」は3歳で夭折した豊臣秀吉の長男、鶴松の菩提を弔うために建立された京都の祥雲寺(現在の智積院)に描かれた障壁画。

 慶長15年(1610年)徳川家康の要請を受け江戸に向うが、旅中で発病し、江戸に着いて2日目にして病死した。
 長谷川等伯は秀吉、家康の天下人に重用された天才だった。
2010年3月18日観覧

2010年3月16日火曜日

二葉百合子引退に想う

琴線に触れる「岸壁の母」

「岸壁の母」のヒット曲で知られる歌手で浪曲師の二葉百合子が引退を表明した。

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 いつ聴いてもグッとくる。
――港の名前は舞鶴なのに
   なぜ飛んで来てはくれぬのじゃ

 二葉百合子の「岸壁の母」は心の琴線に触れる。
 ♪母は来ました 母は来た
  この岸壁に 母は来た
と二葉百合子が歌い出す。なめらかなこぶしと伸びやかな高音が響く。いつも熱唱である。そして、台詞となる。浪曲師ならではの語りが巧い。「港の名前は舞鶴なのに……」の叫びに圧倒され感動するのだ。
 作詞は藤田まさと。作曲は平川浪竜。

「岸壁の母」とは、第2次世界大戦後、ソ連による抑留から解放され、引揚船で帰ってくる息子を舞鶴で待つ母親たちを言い、そのひとりである端野いせを題材とした流行歌、映画がそのタイトルとなった。
 敗戦後、ソ連軍に囚われ厳寒のシベリアの地で抑留され、満足な食事や休養も与えられず、苛酷な労働をさせられ、多くの日本人が亡くなった。

「異国の丘」はシベリア抑留の兵隊サンによって流行った曲で、作詞の増田幸治も作曲の吉田正も抑留者だった。
 ♪我慢だ待ってろ 嵐が過ぎりゃ
  帰る日も来る 春も来る
 望郷の想いが伝わってくる。

「岸壁の母」は1954年(昭和29年)に菊池章子がレコード化し売れた。1972年になって二葉百合子が吹き込み、再び大ヒットした。
 菊池章子は戦後間もない1947年(昭和22年)に「星の流れに」で大ヒットを飛ばした歌手として記憶に留めたい。「こんな女に誰がした」と娼婦の心情を題材としている。
 ♪星の流れに 身を占って
  どこをねぐらの 今日の宿
 作詞は清水みのる、作曲は利根一郎。敗戦の日本・進駐軍・ギブミーチョコレート・街角で米兵に媚を売る女――当時の日本がフラッシュバックする。

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 二葉百合子の引退から、「岸壁の母」「異国の丘」「星の流れに」と想いを馳せると、流行歌(はやりうた)は時代の必然が生むものと感慨にひたる。

2010年3月14日日曜日

美人すぎる「花のあと」

北川景子が藤沢周平作品に出演

 北川景子といえば、若手女優のなかでもとびきりの美人である。草球の悪い癖・思い込みだけではないと思うが、どうですか、みなさんは?
 藤沢周平の「花のあと」(文春文庫)の主人公の女剣士の以登を彼女が演じた。映画(中西健二監督)は3月13日から公開されている。

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「花のあと―以登女お物語―」を再読する。
 父親・寺井甚左衛門から剣の指導を受け、男まさりの腕前となった以登は、たった一度竹刀を交わした羽賀道場きっての剣士、江口孫四郎に想いを寄せていた。寺井家は組頭、江口の家は平藩士で孫四郎は部屋住み。所詮、身分が違う。甚左衛門は片桐才助との縁談をまとめる。以登も孫四郎への想いを断ち切るが、孫四郎が自栽したことを知る。孫四郎を罠に陥れ自栽の追い込んだのは、藩の重鎮・藤井勘解由の陰謀だった。以登が立ち上がる――。

 さて、以登が美人すぎるという話である。
 藤沢周平の描写がある。
――以登は美貌ではなかった。細面の輪郭は母親から譲りうけたものの、眼尻が上がった眼と大きめの口は父親に似て、せっかくの色白の顔立ちを損じている。

 どうやっても北川景子は浮かんでこない。

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 まぁ映画は別作品である。ヒロインの女剣士・以登は小説のイメージ通りの配役より、北川景子の方が画面で観て楽しいのだろう。いちゃもんをつける筋合いじゃありません。

 その他のキャスト
・片桐才助=甲本雅裕
・江口孫四郎=宮尾俊太郎
・寺井甚左衛門=國村隼
・藤井勘解由=市川亀治郎
2010年3月14日再読花のあと (文春文庫)

2010年3月12日金曜日

藤沢周平「又蔵の火」

暗い宿命を背負う主人公たち
 
 藤沢周平の初期の作品集「又蔵の火」(文春文庫)を読む。1973年(昭和48年)「暗殺の年輪」で直木賞を受賞した後に出版された。
「あとがき」で著者が、
――どの作品にも否定し切れない暗さがあって、一種の基調となって底に流れている。話の主人公たちは、いずれも暗い運命のようなものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ。
と書いているように、収録されている5編がいずれも暗く重い。が、不快ではなく、『負のロマン』を持った主人公に感情移入できる。

目次
・又蔵の火
・帰郷
・賽子(さいころ)無宿
・割れた月
・恐喝

「又蔵の火」は一族の面汚しとして死んだ放蕩の兄のため、仇討に挑む又蔵の話だが、この表題作より草球の好みは「帰郷」だった。
『弔いの宇之』と異名をとった老いた渡世人の宇之吉が故郷に戻ってくると、様子が変わっていた。かつて世話になった高麗屋は傾き、かわりに野馬の久蔵が勢力を伸ばしていた――。

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「暗く重い」からユーモアが加味された作風に変わったのは「用心棒日月抄」(1978年)あたりと言われている。
2010年3月12日読了又蔵の火 (文春文庫)

2010年3月11日木曜日

大観と栖鳳:山種美術館

キャッツアイが魅力の「班猫」

 キャッツアイに魅せられた。あの猫は何を凝視しているのだろうか。緑色の瞳が生きている栖鳳(せいほう)の「班猫」(はんびょう)――。

×  ×  ×

 東京・広尾の山種美術館で「大観と栖鳳―東西の日本画―」展(2月6日~3月28日)を観る。明治、大正、昭和を通じて、東京と京都の画壇で活躍し、日本画の革新に努めた横山大観と竹内栖鳳の画業を振り返るとともに、二人の周辺の画家たちの作品を展示している。見応えの50余点が並ぶ。

 草球の目を引いた作品
東京画壇
・横山大観:「燕山の巻」「作右衛門の家」
・下村観山:「老松白藤」
・安田靫彦:「出陣の舞」
・伊東深水:「婦人像」

京都画壇
・竹内栖鳳:「班猫」(重要文化財)「蛙と蜻蛉」
・上村松園:「新蛍」
・村上華岳:「裸婦図」

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 大観の「燕山の巻」は17メートル余の大作。隅々まで手を抜かぬ筆遣いに感心した。それにしても、こんなに大きな作品とは思っていなかったなぁ。安田靫彦の「出陣の舞」は、形勢不利な今川義元との桶狭間の戦さに、幸若舞「敦盛」を舞って臨む姿を描いている。史実と重なり興味深い。
 伊東深水「婦人像」は木暮実千代を描いたもので、映画で何度も観た女優さんで親近感が沸いた。ちなみに朝丘雪路は深水の娘。
2010年3月11日観覧

2010年3月9日火曜日

平井加尾:大河「龍馬伝」

龍馬への愛を演じる広末涼子

 NHK大河ドラマ「龍馬伝」で広末涼子が演じている平井加尾は実在の人物である。土佐藩士の平井修二郎の妹。1859年土佐藩主の山内容堂の妹、友姫が京の三条公睦に嫁ぐ際に御付役(奥女中)として上洛し、三条家に仕えた。京では勤王の志士の面倒をみたという。その後、土佐勤王党の西山志澄(ゆきずみ)と結婚している。志澄は1898年(明治31年)第1次大隈重信内閣で警視総監を務めた。
 加尾は龍馬のことが忘れがたい存在だったようで、龍馬らが寄せ書きした金茶色の袱紗に白絹の袱紗を縫い付け歌を残している。

 あらし山花のこころはとまるとも なれしみくにの春な忘れそ

×  ×  ×

 司馬遼太郎の歴史小説「竜馬がゆく」では平井加尾は登場しない。身分の差を超えて龍馬を愛する土佐藩家老・福岡家のお田鶴さまが小説では登場するが、田鶴は司馬が創り上げた架空の人物である。加尾がそのモデルと言われている。

 ところで広末涼子の加尾は龍馬をいちずに愛する想いを好演しているよね。

2010年3月7日日曜日

ふるさとの『鉛』懐かし

新聞の将来は「サザンカの宿」か

 最近気になることがある。新聞業界の将来はどうなるのかと。
 東京ボーイズ風に歌うと、
 ♪新聞の将来を、謎かけ問答で解くならば
  サザンカの宿と解きまする
  ……
  あなた明日が見えますか

 まさに新聞の先行きは『くもりガラス』状態で、不透明である。
「サザンカの宿」は大川栄策が歌ってたなぁ。作詞吉岡治、作曲は市川昭介だ。
 ♪くもりガラスを手でふいて
  あなた明日が見えますか
 山間の温泉宿かどこか。逢瀬に身を焼く人妻。あすは離ればなれになる二人。「せめて朝まで腕のなか 夢を見させてくれますか」なんちゃって(笑)。

 蛇足ついでに「サザンカ」は山茶花と書き、花言葉は「ひたむき」だそうです。そうそう、山茶花究(さざんか・きゅう)という「詐欺師」なんぞの役柄が実に巧い名優もいましたっけ。

×  ×  ×

 さて話を戻す。
 先ごろ発表の電通調査によれば、2009年の総広告費は前年比11.5%減の5兆9222億円となり、2年連続で前年を下回った。下げ幅は過去最大。世界同時不況による年前半の大幅な落ち込みが響いた。媒体別では新聞が18.6%減の6739億円と落ち込む一方で、インターネットは1.2%増の7069億円で、初めてネットが新聞を上回った。

 こんな事態は10余年前から予想できたが、業務構造の改革が進まなかったようだ。新聞はマスコミ最強の頭脳などと自惚れ・プライドが妨げたのか。

×  ×  ×

 かつてスポーツ新聞社に勤めていた。入社して10年ほどは鉛の時代だった。
 現場で取材した記者が原稿を書く。パソコン入力以前は、電話やファックスで送られた原稿をパンチャーが入力し、鉛活字鋳造機で活字にする。その活字を編集の整理記者(編集者)が記事を割り付け、見出しを付けて、制作の組み版のプロが熟練の技で左右さかさまの鉛活字を組み上げていた。
 1445年グーテンベルグが発明した活字印刷機は、20世紀までその任務を全うした。鉛活字が消えて久しい。だが、より早くより正確なニュースを伝える新聞の本質は変わらない。ニュースの需要はどんな時代にも常にあるはずである。どのようなカタチになるにせよ新聞には生き残ってほしい。

 ふるさとの『鉛』は懐かしく、愛おしいのだ。

2010年3月5日金曜日

任侠ナックル・ボーラ―

行く先は風まかせ
 ナックル・ボーラーとかけて、国定忠治と解く。
 その心は――。

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 アメリカ独立リーグから入団のオファーを受けている『ナックル姫』吉田えり投手(18歳)が、米大リーグのボストン・レッドソックスのウェークフィールド投手(43歳)と対面し、直接指導を受けたという。同投手は通算189勝を記録している当代きってのナックル・ボールの遣い手、ナックル・ボーラーである。

×  ×  ×

 ナックル・ボールは『やくざな球』である。
 投げた投手でさえ、何処に行くかわからない。
 当事者さえ知らぬ、当ても果てしもねぇ旅に出るのだ。この魔球の遣い手は、『名月・赤城山』国定忠治の心境になるのではないか。
 というわけで、上記の謎かけ、その心は「どちらも行く先は風まかせ」です。
 ナックル・ボーラーは渡世人の生き様に似ている。
 草球の独断的意見ですが……(ポリポリ=照れて頭を掻く)。

 ナックル・ボールとは、投手が投じた回転のほとんどないボールが捕手に届くまでの間に不規則に変化する変化球である。その変化は、右へ左へ斜めに横にひらひらと舞う、蕩(たゆた)うなどと表現される。投手も予測不可能で、「バットの芯に当てにくい」打者を惑わせる魔性が潜むボールなのだ。そのあたりが魔球のなかの魔球と言われる所以だろう。

 その魔性を生むメカニズムは、ボールの縫い目にある。ゆっくりと回転しながら縫い目の位置が変わるナックル・ボールはボールの表面を覆う空気の流れが縫い目により乱れる。縫い目の位置が変われば、空気の乱れる場所も変わるので、ボールが変化する方向も変わる。回転数が少ないほど、空気の影響を受けて、揺れ幅が大きくなる。
 空気――風向き、風速そして湿度で変化する。

 野球ボール(硬球)はコルクやゴムの芯に糸を巻き付け、牛革で覆い縫い合わせる。公認野球規則では、重さ141.7~148.8グラム、円周22.9~23.5センチと定められている。縫い目は赤い糸が使われている。一般に日本製とくらべ、米国製のボールは表面がすべすべしていて、重く大きく縫い目が高いと言われている。

 山際淳司の著書「ナックル・ボールを風に」を思い出した。ナックルボールを風に (角川文庫)

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 曲げた指の関節(knuckle)で突き出すように投げることから、ナックル・ボールの由来がある。全力で腕を振る必要がなく、肩や肘にかかる負担は少ない。吉田えりでも、大リーガーを牛耳る可能性を秘めた魔球である。
 ただし、打者を惑わす魔性のボールは、風の機嫌が悪ければで棒球となり、簡単にスタンドに運ばれてしまう。ナックル・ボーラーになるには度胸がいるのだ。リスクが常に付いて回る。このあたりにも『任侠の世界』を感じてしまうのだ。

 かくして、ナックル・ボールは風に舞う。

2010年3月2日火曜日

東野圭吾「赤い指」


 東野圭吾の人気シリーズの主人公刑事、加賀恭一郎を阿部寛が演じるという話題が、スポーツかわら版に載っていた。TBS日曜劇場で著者のシリーズ最新刊「新参者」(講談社)をドラマ化する。4月スタートだそうだ。
 阿部ちゃんの刑事か。デッカイ刑事の誕生だ。これぞ『デカ』(笑)。

 そんな興味もあって、東野圭吾の「赤い指」(講談社文庫)を読む。加賀恭一郎シリーズの第7弾。

 照明器具メーカーに勤める前原昭夫の元に、妻の八重子から「早く帰ってきてほしい」と帰宅を急かせる電話が入った。痴呆を患っている母政恵、妻が甘やかして育てた幼児趣味のある中学生のひとり息子直巳との4人暮らし。嫁姑の冷えた関係に介護の問題があり、自立心のない息子と家庭は崩壊していた。不安を抱え帰宅した昭夫が自宅の庭で目にしたのは、黒いビニール袋から覗いた白い靴下をはいた小さな足――少女の遺体だった。

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 加賀恭一郎、練馬署勤務時代の事件。シリーズ第1作「卒業」では、大学生の加賀が事件解決のアドバイスを受けた父隆正だが、今回は胆嚢の癌で入院している。加賀の父親を実父のように感じている従弟の松宮修平は警視庁捜査一課の刑事で、加賀と組んで捜査を担当する。
 本編では、母親のこと、父親との微妙な関係と、加賀恭一郎の貴重な?私生活を知ることができる。

 加賀は長身、彫りの深い顔立ち。学生時代には剣道の大学選手権を制したキャリアがある。卒業後、教師を経て父親と同じ警察官の道を選んだ。

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 読者それぞれが加賀のイメージを持っている。「新参者」のドラマ化で、どんな刑事を見せるのか、阿部ちゃんの演技が楽しみだ。
2010年3月1日読了赤い指 (講談社文庫)