2007年10月14日日曜日

大映はカツライスの味

 悲しみの大女優がテレビ画面に映し出された。誰にでも老いは迫る。例外は許されないはずだが、往年を彷彿させる美しさがいまだ名残を留めていた。
 世界的な建築家として知られる黒川紀章(くろかわ・きしょう)さんが心不全のため死去した。享年73歳。2007年10月12日のことだ。妻は女優の若尾文子さんである。
 
 本題は訃報から非情にも大映に飛ぶ。
 大映株式会社は1942年(昭和17)から2002年(平成14)まで存在した映画会社で、現在は角川映画が引き継いでいる。

 草野球音は1960年代を中心にした大映に郷愁のゆくえを追う。

 1947年に永田雅一が大映社長に就任すると、人気作家の川口松太郎(1899年―1985年)を専務に据えた。世の女性の紅涙を絞ったのは三益愛子(1910年―1982年)の「母物シリーズ」である。戦後10年間にわたり人気を博した。1951年、川口松太郎と三益愛子は正式に結婚している。
 1951年「羅生門」(黒澤明監督)でベネチア国際映画祭グランプリ、1953年「雨月物語」(溝口健二監督)で同銀獅子賞、1954年「地獄門」(衣笠貞之助監督)でカンヌ国際映画賞グランプリに輝き、大映作品の芸術性を高めている。
 若尾文子は1952年に映画デビューし「十代の性典」を経て、京マチ子、山本富士子と並ぶトップ女優となっている。男優はなんといっても大御所の「永遠の二枚目」長谷川一夫を頂点に、市川雷蔵(1931年―1969年)がスターとなっていた。60年代に入り勝新太郎(1931年―1997年)、そして田宮二郎が台頭する。
 さらに男優に船越英二、根上淳、菅原謙二、川口浩、川崎敬三、高松英郎、成田三樹夫、女優に野添ひとみ、叶順子、江波杏子、中村玉緒、藤村志保、安田道代(大楠道代)と綺羅星の如く輝いていた。
 
 さてカツライスの意味を分かりますか?
 カツライスとは勝+雷。大映の誇る勝新太郎と市川雷蔵のことで、最強の二本立て上映を指す。映画デビューはふたりとも1954年の「花の白虎隊」。二本立ても死語になっている。

 雷蔵の魅力はクールな二枚目、凛々しい品格の美しさである。37歳惜しまれながらの夭折だが、その存在は映画史に残る。着物の裾さばきが見事で、どんな激しい立ち回りを演じても裾が乱れなかったという。「眠狂四郎」「忍びの者」「若親分」「陸軍中野学校」の人気シリーズがあり、三島由紀夫の「金閣寺」を映画化した「炎上」、「剣」、「華岡青洲の妻」など名作を残す。
 勝新は雷蔵に先を越され売れなったが、1960年白塗りの二枚目を捨てた「不知火検校」が当たり開花した。代名詞となった「座頭市」はじめ「悪名」「兵隊やくざ」の人気シリーズがある。若山富三郎は兄、妻は中村玉緒。
 カツライスは昭和30年代日本映画の黄金期、お盆と正月の大映の定番メニューだった。

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 東京・銀座の老舗洋食屋「煉瓦亭」のカツライス(ポークカツレツ)の値段は、昭和30年に120円だった。40年は250円、雷蔵が亡くなった44年は280円、ふたりとも鬼籍に入っている現在(平成19年)は1,250円となっている。
 昭和も遠くなりにけり。

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