池上永一の「テンペスト」第四巻冬虹(角川文庫)を読む。文庫の最終巻。
昼は王府に勤める官吏で宦官の孫寧温、夜は側室の真鶴だが、尚泰王の子を身籠る。悩んだ末に母になることを決意する。列強の脅威に晒され、琉球王朝は崩れようとしていた。
× × ×
琉球王朝は、明治(1879年)になって沖縄県となり終焉しましたが、独自の文化伝統を持った独立した国家だったのですね。あらためて知りました。江戸時代は清国と薩摩藩に両属していた特種な歴史を少しばかり勉強した思いです。
太平洋戦争での沖縄戦で20~24万人もの戦没者を出し、占領され、日本に返還されたのは1972年(昭和47年)のことです。今もって普天間の基地問題などに直面し、歴史の渦の中で翻弄される地といっても過言ではありません。
波乱万丈という陳腐な表現しかできませんが、美貌と才覚を持った真鶴が宦官の孫寧温として生きる決意をすることで、ジェットコースターのようなストーリー展開が幕を開けます。清と薩摩のパワーバランスの上に立つ琉球王府。19世紀。江戸幕府の鎖国政策は風前の灯となっていました。欧米の列強は清はじめアジアに触手を伸ばすそうとしている、そんな時代背景でした。
なにより登場人物のキャラが面白く、読ませました。男と女との間で葛藤する主人公の二役?孫寧温と真鶴がこの物語のキモでしょうか。科試の受験塾時代からライバルの喜舎場朝薫、真鶴を愛する薩摩藩士の浅倉雅博、宦官ながら漁色家の徐丁垓、真鶴と親友になる真美那、そして市井のユタ(祈祷師)ジュリ(遊女)まで身を落とす聞得大君の真牛(もうし)……。起伏のドラマを盛り上げてくれましたな。
池上さんのこの物語は劇画のようでした。軽い歴史エンターテイメントです。
目次:第四巻冬虹
・第十四章:太陽と月の架け橋(承前)
・第十五章:巡りゆく季節
・第十六章:波の上の聖母
・第十七章:黄昏の明星
・第十八章:王国を抱いて翔べ
第一巻春雷
・第一章:花髪(はなからじ)別れ
・第二章:紅色の王宮へ
・第三章:見栄と意地の万華鏡
・第四章:琉球の騎士道
・第五章:空と大地の謠
第二巻夏雲
・第五章:空と大地の謠(承前)
・第六章:王宮の去り際
・第七章:紫禁城の宦官
・第八章:鳳凰木の恋人たち
・第九章:袖引きの別れ
第三巻秋雨
・第十章:流刑地に咲いた花第三巻秋雨
・第十一章:名門一族の栄光
・第十二章:運命の別れ道
・第十三章:大統領の密使
・第十四章:太陽と月の架け橋
2011年10月8日読了
*「 👍いいね!」
0 件のコメント:
コメントを投稿