*歌麿・写楽・京伝・馬琴に蔦重
藤沢周平の「喜多川歌麿女絵草紙」(文春文庫)を読む。生身の女を描くことに執念を燃やす絵師・歌麿を描いた連作短編集。
老中松平定信による寛政の改革期。風紀取締りが厳しくなり、洒落本が摘発され著者の山東京伝は手鎖50日の処罰、版元の蔦屋重三郎は身代半減の過料を受けた。再起の足がかりに蔦屋は役者絵を出版すること決意する。美人絵などは取締りの対称となる恐れがあり、役者絵は対象外だった。
蔦屋の営む耕書堂の番頭で京伝の居候である滝沢馬琴に役者絵を依頼された歌麿は、それを断る。歌麿は当代一の人気絵師。蔦屋に売り出してもらった恩義はあるが、美人絵こそが己の道と堅く信じる歌麿であった。
以上の時代背景で物語は進む。6つの短編に美人絵のモデルの女が登場し、その素顔をさまざまな出来事を通じて描いている。
「近ごろ、筆が荒れていませんか」
と蔦屋は言った。柔らかい口調だったが、厳しい表情をしている。
「天下の喜多川歌麿にこんなことを言うのは、大変失礼なんだが、若い時分からのつき合いのあたしが言わなきゃ、誰も言わんだろうし」
「言って下さい。構いませんよ」
と歌麿は言った。
「顔は同じなんですよ。どの女も」
歌麿は一瞬、平手で顔を殴られたような感じを受けた。恐ろしい言葉を聞いたという気がした――巻末の「夜に凍えて」から引用――
蔦屋が発見した非凡な才能の写楽。その圧倒的な写実力のある写楽の役者絵を観た直後。自らの絵がマンネリ化していることに気が付いていた歌麿だが、面と向かって暴かれ衝撃を受ける。
そして、生身の女を描く情熱の炎を再び燃やす。
目次
・さくら花散る
・梅雨降る町で
・蜩(ひぐらし)の朝
・赤い鱗雲
・霧にひとり
・夜に凍えて
× × ×
歌麿、写楽、京伝、馬琴に江戸きっての出版プロデューサー蔦重と役者が揃い、田沼意次から松平定信への時代に変革と、歴史好きには面白い読み物ですな。
昨年の暮れ、六本木のサントリー美術館で「歌麿・写楽の仕掛人 その名は蔦屋重三郎」展を観ました。東日本大震災のわずか3カ月前だったのです。巨大地震の前のことは、かなり遠い昔のように思われます。
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*蔦屋重三郎展:サントリー美術館2010/12/10記
2011年3月17日読了
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