2010年7月2日金曜日

続・司馬遼太郎「人斬り以蔵」

大村益次郎を描いた「鬼謀の人」
 岡田以蔵に辞世の句がある。
君がため尽す心は水の泡
消えにし後は澄みわたる空
 これって、彼が本当に詠んだ句だろうか。

 土佐の武市半平太と以蔵の関係は、薩摩の西郷吉之助と人斬り半次郎といわれたのちの桐野利秋や田中新兵衛にもあてはまるが、親分の度量の差があったようだ。
 司馬は「西郷と武市の、親分としての資質の致命的なちがいは、ユーモアの感覚の有無であったろうか」と書いている。

×  ×  ×

 司馬遼太郎の短編集「人斬り以蔵」には日本陸軍の祖といわれる大村益次郎を描いた「鬼謀の人」が収録されている。長州の農村医者の倅、村田蔵六(のちの大村益次郎)が大坂で緒方洪庵の適塾でオランダ語を習得し、長州でさえ誰も知らぬ存在が、特異な才能を発揮し倒幕軍の作戦参謀となる半生を描いている。
 刀の抜き方も知らぬ、馬にも乗れぬ男が彰義隊との上野戦争で、アームストロング砲を駆使して江戸を戦火から救う作戦を指揮する。
 上野戦争の遺恨から、陸軍の礎を築き明治2年に暗殺される。

 司馬は結んでいる――益次郎は歴史がかれを必要としたとき忽然としてあらわれ、その使命がおわると、大急ぎで去った。神秘的でさえある。
 
「花神」は長編バージョン。

×  ×  ×

 他に、家康がオランダから輸入したという大砲『ブルキトース』が幕末になって引っ張り出され、使われる話「おお、大砲」が面白かった。
 8編の短編集。いずれも白戸次郎⇒シロイヌ(尾も白い=オモシロイ)。お薦め。
2010年7月1日読了人斬り以蔵 (新潮文庫)
 

0 件のコメント:

コメントを投稿