2009年11月10日火曜日

鳥羽亮「鬼哭の剣」

血臭漂う描写力

 鳥羽亮の「鬼哭の剣―介錯人・野晒唐十郎」(祥伝社文庫)を読む。
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 刹那、シャというかすかな刃音をたてて、唐十郎の構えた五郎清国が一閃した。
 ゴッ、という頸骨(けいこつ)を断つ音を残して黒い塊(かたまり)が一間(いっけん)ほども飛び、その後を追うように首根から血が、走った。勢い よく噴出した血は棒状に前に飛び、まさに、走った、ように見えた。
 斬首された新井は前につっ伏すように倒れ、その首根から、ビュ、ビュと音をたてて噴きだした血が白砂や青畳を見る見る赤黒く染めた。春の新緑の匂いのなかから、蒸(む)せるような生あたたかい血の濃臭がたちこめてきた。~「鬼哭の剣」からの抄録

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 狩谷唐十郎は小宮山流居合に達人にして市井の試刀家で、藩邸や旗本から頼まれ身寄りのない生き倒れや自殺者、小塚原で処刑された罪人の屍(むくろ)をもらいうけ刀の利鈍を試すが、ときには切腹の介錯も務める。神田松永町の自宅庭には、身の丈一尺二三寸ほどの石仏が並んでいる。唐十郎が命を奪った者への供養に置かれたものだが、野晒状態である。人は「野晒唐十郎」と呼んだ。
 天保13年(1842年)、世は老中・水野忠邦のもと幕政改革が行われていた時代であった。花の季節も終えた3月(旧暦)、野晒唐十郎は旗本・久野孫左衛門の依頼を受け、先代将軍の家斉拝領の名刀「蘇我弥五郎清国」の試刀と介錯を頼まれる。斬ったあとに刀剣に浮き上がる牡丹映りがないことから、贋作と看破する。が、偽物であることを告げずに帰途につくと、刺客に狙われる。この試刀と介錯を機に、唐十郎は南町奉行の鳥居耀蔵と老中・土井利位(としつら)の政争に巻き込まれていく……。
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 上の段落にある抄録は、冒頭の介錯の場面。擬音効果が臨場感を増す。なんとも血臭漂う描写に圧倒される。
2009年11月8日読了

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