粋な今の再登場
堂場瞬一の「刑事・鳴沢了シルーズ」第7弾「血烙」(中公文庫)を読む。
新潟、東京と舞台は移り、そして今回は米国へ飛ぶ。ニューヨーク市警で研修中の鳴沢了に、今や全米のアイドルとなった勇樹がハイジャックに巻き込まれる事件が起こる。鳴沢が現場に駆けつけると、犯人の射殺された死体があり、勇樹の姿はなかった。その行方を追いアトランタ、フロリダと捜査を展開する。見え隠れするチャイニーズマフィアの大物、七海の宿敵トミー・ワンの影――。
ストーリーはいきなり米国に移り、リアルさ・現実味は希薄になった感があるが、ニューヨーク、アトランタ、フロリダと現地取材したのではと推測される、細やかな描写もあり、骨髄移植の問題も登場するなど、エンタテイメントに仕上がっている。
フロリダのキー・ウェストに犯人を追い詰め、鳴沢は身体を張って捉えた。そのとき、彼の携帯電話が鳴る。相手はあの第4弾「弧狼」でコンビを組んだ今敬一郎だった。刑事を辞め、実家の住職を継ぐという知らせだった。鳴沢は今の報告を聴き、気を失う。このあたりの、今の再登場は堂場の粋な演出だ。
キー・ウェストは米国最南の都市で、ヘミングウェイErnest Hemmingway(1899年―1961年)が暮らした場所である。こんな記述もあった。
――フロリダ・キーズは世界的な釣りのメッカなのだ。七海が敬愛して止まないテッド・ウィリアムスも、引退後はアイラモラーダで釣り楽しんでいた。キー・ウェストに暮らしたヘミングウェイも、スロッピー・ジョーズ・バーで呑んだくれてばかりではなく、穏やかな海に釣り糸を垂らしたことだろう。
2009年3月21日読了
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