2010年12月30日木曜日

加藤廣「秀吉の枷(上)」

竹中半兵衛の遺言は天下取りの秘策
 加藤廣の「秀吉の枷(上)」(文春文庫)を読む。「信長の棺」に続く本能寺三部作の第2弾。

「信長の棺」は、信長の家臣で「信長公記」の作者である太田牛一が、本能寺の変で横死した信長の消えた遺体を追う歴史小説ミステリーで、秀吉の出自が摂関家藤原氏ゆかりの丹波の山の民であり、本能寺から南蛮寺へ抜ける秘密の地下通路の存在が明らかにされる――その前提(加藤廣の仮説)で「秀吉の枷」を、読み進まれると、理解が深まると思う。

 物語は秀吉の参謀・竹中半兵衛の死から始まる。今際の際で半兵衛が秀吉に言葉を遺す。「まず申し上げたきは、殿は、あの『覇王』より大きな器の持ち主ということでござる。殿は、いつまでもあの『覇王』の手先であってはなりませぬ」。
 半兵衛の遺言はとりもなおさず秀吉天下取りの秘策であった。
 天正10年(1582年)、備中高松城を水攻めしていた秀吉は、援軍に来るはずの明智光秀の緩慢な動きから謀反の企てを事前に察知する。そして、ある手を打つのだった……。

上巻目次
・第一章:竹中半兵衛死す
・第二章:諜報組織
・第三章:覇王超え
・第四章:天正十年
・第五章:本能寺の変

×  ×  ×

『覇王』とは、デジタル大辞泉をひくと、①覇者と王者、覇道と王道、②武力で諸侯を統御して天下を治める者、とあります。この物語では②の意味で、敢えて竹中半兵衛は信長に対して遣った言葉なのでしょうね。
「秀吉の枷」は秀吉の視点で信長を観ています。天下統一のために手段を選ばず、天皇さえも軽んじ、抵抗する勢力には大量殺戮をもする信長の残忍さに、家臣ながら距離を置いた醒めた目で観ています。
2010年11月27日当ブログに加藤廣「信長の棺(上・下)」を記述。
2010年12月28日読了

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2010年12月28日火曜日

龍馬の幕末から江の戦国へ

伯父に信長、義兄に秀吉、義父は家康
江(ごう)」って女性を知っていますか?
 伯父に信長、義兄に秀吉、そして義父は家康――とんでもないキャリア女性。戦国随一の超セレブなのです。

×  ×  ×

華麗な系図をザックリおさらいしましょう。

 江の母親は戦国きっての美女と謳われた市で、彼女は織田信長の妹。江の父は武将・浅井長政。市と長政の間に3姉妹が授かる。世に知られる『浅井三姉妹』で、長女が茶々(秀吉の側室・淀殿)、次女は初(京極高次の正室)、三女が江。市の血を引き揃って美人だったそうな。
 市は兄の信長の命により戦略結婚で長政に嫁ぐが、のちに信長と長政が対立し戦となり、小谷城が陥落し長政は切腹、市と三姉妹は織田家に預けられる。
 信長が本能寺の変で横死したのち、市は織田家筆頭家老の柴田勝家と再婚する。羽柴勝家が信長の後継争いで秀吉に敗れ、勝家と市は自害して果てる。三姉妹は秀吉のもとに身を寄せることになる。

 長女の茶々は秀吉の側室・淀殿となり、嫡男の豊臣秀頼を生む。大坂夏の陣で徳川方に敗れ、秀頼とともに自害したといわれている。
 次女の初は京極高次に嫁ぐ。京極家は室町幕府の侍所の長官を世襲する名門武家。

 さて、江は佐治一成に嫁ぐが、秀吉により離縁させられる。二度目の結婚相手は秀吉の甥の羽柴秀勝。秀勝は朝鮮出兵で病死する。そして当時(1595年)豊臣家の家老職にあった徳川家康の嗣子である秀忠に再々嫁する。秀吉の死後、家康が豊臣家を滅ぼし、秀忠は徳川2代将軍となる。江は秀忠の6歳年上。秀忠との間に、千姫(秀頼の正室)、家光・忠長ら2男5女を儲け、家光は3代将軍となる。
 死後に崇源院の名が贈られる。江は3度目の結婚で幸せを掴んだ。

 信長、秀吉、家康の戦国3代武将と、市と三姉妹の生涯は、戦国から徳川の幕藩体制への歴史そのものですね。

×  ×  ×

 新年早々にNHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」が始まります。江には上野樹理、茶々に宮沢りえ、初に水川あさみが扮するそうです。ちなみに信長は豊川悦司、秀吉は岸谷五朗、家康は北大路欣也、市は鈴木保奈美です。

 最近、池波正太郎の「真田太平記」、和田竜の「のぼうの城」、加藤廣の「信長の棺」「秀吉の枷」など戦国小説に興味を持ち読んでいます。
 大河ドラマ、楽しみですね。

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2010年12月22日水曜日

畠中恵「いっちばん」

「餡子は甘いか」が『いっちばん』の好み
 畠中恵(はたけなか・めぐみ)のファンタジー時代小説「いっちばん」(新潮文庫)を読む。「しゃばけ」シリーズの第7弾。

 江戸の大店、廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな一太郎は虚弱体質ですぐに寝込んでしまう。若だんなと彼を支える兄やの佐助と仁吉、妖(あやかし)らが事件を解決する物語。挿絵は柴田ゆう。※敬称略
「いっちばん」は5つの物語からなる短編集。

目次
・いっちばん
・いっぷく
・天狗の使い魔
・餡子は甘いか
・ひなのちよがみ

「餡子は甘いか」が『いっちばん』好みだった。
 菓子屋・三春屋の跡取り息子で一太郎の長馴染みの栄吉が老舗の安野屋へ修業に出る。相変わらず菓子作りは下手くそで雑用ばかりしている。ある日、砂糖泥棒が捕まった。八助という泥棒、菓子の材料を言い当て、主人の虎三郎に気に入られ奉公することになった。菓子作りの才能がある新弟子八助に、栄吉は落ち込み菓子職人の夢を断とうとするが……。

×  ×  ×

 恥ずかしながら畠山恵さんの「しゃばけ」シリーズを初めて読みました。女性読者に人気のあるシリーズ、その魅力のほんのちょっこと味わいました。
2010年12月21日読了

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2010年12月21日火曜日

坂本龍馬×百段階段:目黒雅叙園

龍馬の愛刀・勝海舟の掛軸
 NHK大河ドラマ「龍馬伝」の福山雅治演じる龍馬はよかったなぁ。初めて大河を1年通じて観ました。福田靖のオリジナル脚本は、香川照之の岩崎弥太郎が明治期に土佐の土陽新聞の記者・坂崎紫瀾の取材を受け、龍馬の思い出を語るシーンがドラマの冒頭だった。
 龍馬の人気を確かなものにしたのは、司馬遼太郎の小説「竜馬がゆく」だが、紫瀾こそが龍馬を初めて主人公とした小説「汗血千里駒」を書いたご仁なのだよね。
「龍馬伝」が終わって1か月になるが、龍馬への思いは熱く、目黒雅叙園に出向いてみることにした。

×  ×  ×

 東京・目黒の目黒雅叙園で「坂本龍馬×百段階段」特別展(2010年11月27日~12月23日)を観る。
 東京都指定有形文化財の木造建築「百段階段」(実際は99段とか)には階段をつないで部屋がある。それぞれに絢爛たる美術品が彩っている。その7つの部屋を使い下から上へ、坂本龍馬の生い立ちから暗殺に至るまでを追って手紙、遺品、写真などを展示する趣向を凝らしている。

構成
A 十畝の間:土佐の郷士坂本家
B 漁礁の間:坂本龍馬登場
C 草丘の間:激動の時代に生きた龍馬
D 静水の間:仲間たちの中に生きた龍馬
E 星光の間:愛する人の中に生きた龍馬
F 清方の間:慶応3年11月15日の悲劇
G 頂上の間:龍馬への言葉

  本展のみどころは、
・本山白雲作の桂浜の龍馬像の原型
・刀工左行秀(さの・ゆきひで)作の兄・権平から贈られた龍馬の日本刀
・龍馬から贈られたお龍の帯締
・勝海舟から贈られた龍馬追悼詩(掛軸)
といったところだろうか。
 複製だが、「薩長同盟」の朱書した力強い筆致の裏書きや、筆マメな龍馬の手紙が展示され、龍馬の人間性を知ることができる。
2010年12月21日観覧

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2010年12月19日日曜日

再興第95回院展:そごう美術館

吉村誠司の「祭壇(バリ島にて)
 横浜駅東口・そごう美術館で「再興第95回院展」(2010年12月9日~23日)を観る。

 日本美術院は岡倉天心らが中心となって1898年(明治31年)に設立した日本画の研究団体で、再興院展は1914年(大正3年)から続く日本美術院による日本画の公募展である。
 本展では同院の同人作家が描いた33点はじめ、ベテランから若手までの作品92点が展示されている。また昨年12月に亡くなった平山郁夫の小品3点も特別出品されている。※敬称略

・バリ島の神々を神秘的に描いた吉村誠司の「祭壇(バリ島にて)」
・春のイタリア・ベネチアの古い建物と咲きだした花を描いた松尾敏男の「刻(こく)」
・かつて武士が通ったことを想像させる道を描いた大野逸男の「柳生道」
などの作品が個人的には目を惹いた。

本年度受賞者
・内閣総理大臣賞:吉村誠司「祭壇(バリ島にて)」
・文部科学大臣賞:倉島重友「土の家」
・日本美術院賞(大観賞):岸野香「Trip」
・日本美術院賞(大観賞):村岡喜美男「曼珠沙華」
2010年12月19日観覧

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2010年12月16日木曜日

浮世絵☆忠臣蔵―描かれたヒーローたち!?

神奈川県立歴史博物館
 横浜・馬車道の神奈川県立歴史博物館で「浮世絵☆忠臣蔵―描かれたヒーローたち!?」展(2010年11月20日~12月19日)を観る。

「忠臣蔵」といえば、ガキのころ観た東映や大映のオールスターキャスト映画を連想してしまう。とにかくスター勢揃いで、面白かった。
・「忠臣蔵」:大映1958年―渡辺邦男監督。大石内蔵助=長谷川一夫。浅野内匠頭=市川雷蔵。吉良上野介=滝沢修
・「赤穂浪士」:東映1961年―松田定次監督。大石内蔵助=片岡千恵蔵。浅野内匠頭=大川橋蔵。吉良上野介=月形龍之介
 が、どっこいこの展覧会の「忠臣蔵」は、元禄赤穂事件を題材とした歌舞伎や人形浄瑠璃の演目「仮名手本忠臣蔵」である。「忠臣蔵」を題材にした物語そのものや歌舞伎役者などを描いた浮世絵を展示している。歌川広重や歌川国芳、喜多川歌麿らの作品もある。

構成
・第1章:その物語
・第2章:英雄たちの肖像
・第3章:「忠臣蔵」を演じたスター
・第4章:愉快な「忠臣蔵」
・第5章:「忠臣蔵」とかながわ
・第6章:みんな「忠臣蔵」

仮名手本忠臣蔵の主な登場人物
・大星由良之助:塩冶家家老(大石内蔵助のモデル)
・塩冶判官(えんやほうがん):白州城主(浅野内匠頭長矩のモデル)
・高師直(こうのもろのう):幕府執事(吉良上野介のモデル)

×  ×  ×

 映画は観ているが、「仮名手本忠臣蔵」の世界は踈い。鑑賞レベルにないのが残念だったなぁ。
2010年12月16日観覧

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2010年12月15日水曜日

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」

青柳は首相暗殺犯にでっち上げられた
 伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー(A MEMORY」(新潮文庫)を読む。

 仙台での新首相凱旋パレード。テレビで生中継される中、突如爆発が起り、公選で選ばれた50歳の若き首相・金田貞義が死亡した。同じ頃、元宅配ドライバーの青柳雅春は数年ぶりかで旧友の森田森吾と会っていた。森田は「謀略に巻き込まれている。逃げろ」と忠告される。首相暗殺犯にでっち上げられたのは、青柳だった。事件の裏に潜む巨大な陰謀。彼の必死な逃亡が始まる……。

目次
・第一部:事件のはじまり
・第二部:事件の視聴者
・第三部:事件から二十年
・第四部:事件
・第五部:事件から三ヶ月後

 巧みな伏線、ナットクの結末。軽快なテンポとスリルあふれる物語の展開。伊坂幸太郎さんの筆が冴えます。シロイヌ(尾も白い⇒面白い)。

 青柳の逃亡を助ける登場人物が魅力的だ。
・大学時代の恋人・樋口晴子
・サークルの後輩・『カズ』こと小野一夫
・宅配会社の同僚でロック好きの岩崎英二郎
・花火工場社長の轟、
・怪しい入院患者・保土ヶ谷康志
 青柳が暴漢から救ったことがあるアイドル凜香、連続刺殺殺人犯の『キルオ』こと三浦らが、入り組んだストーリーに絡む。

 表題の「ゴールデンスランバー」はビートルズの同名楽曲から採ったものだそうな。直訳すると「黄金のまどろみ」。

×  ×  ×

 2010年1月映画化・公開された。主演の青柳雅春に堺雅人、かつての恋人の樋口晴子には竹内結子が扮している。
2010年12月15日読了

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2010年12月10日金曜日

蔦屋重三郎展:サントリー美術館

歌麿、写楽、京伝を売り出した版元
 江戸は徳川将軍10代家治そして11代家斉の時代。18世紀後半。元号でいえば安永(1772年―1780年)天明(1781年―1788年)寛政(1789年―1800年)年間。浮世絵の喜多川歌麿、東洲斎写楽、戯作の山東京伝、狂歌の太田南畝(なんぼ)らスターが綺羅星のごとく登場し、江戸文化の花が咲いた。彼らの作品を売り出し、出版し、江戸文化の最先端を演出したのが版元の『蔦重』こと蔦屋重三郎だった。
「歌麿・写楽の仕掛け人 その名は蔦屋重三郎」展(2010年11月3日~12月19日)を東京・六本木のサントリー美術館で観る。

蔦屋重三郎の経歴――
 寛延3年(1750年)に江戸吉原で生まれで吉原育ち。23歳の安永2年(1773年)吉原大門の前に書店「耕書堂」を開き、店ごとの遊女を紹介した「吉原細見」を著わし出版業に進出した。
 安永9年(1780年)売れっ子作家・朋誠堂喜三二の黄表紙を出版するなど事業を拡大し、天明3年(1783年)に一流版元が軒を並ぶ日本橋に進出した。
 しかし、家治が亡くなり田沼意次が失脚し、家斉のもとで白河藩主から老中主座に就いた松平定信は逼迫した幕政を建て直すため寛政の改革を実施した。質素倹約を旨とし文武を重んじた。改革は厳しく、出版言論に統制が加えられた。寛政3年(1791年)、山東京伝の洒落本・黄表紙が摘発され、蔦重は身代半減の過料、京伝は手鎖50日の処罰を受けたが、その後歌麿の美人大首絵や写楽の役者絵を世に送り世間の大いなる支持を得た。
 また葛飾北斎(勝川春朗)、十返舎一九、曲亭馬琴らの才能を見出し、援助した名伯楽でもあった。寛政9年、48歳で亡くなっている。

構成
・第1章:蔦重とは何者か?―江戸文化の名プロデューサー
・第2章:蔦重を生んだ<吉原>―江戸文化の発信地 蔦重と江戸吉原/蔦重の新たな展開/蔦重と狂歌師たち/蔦重と寛政の改革
・第3章:美人画の革命児―美人大首絵の誕生 歌麿とライバルたち
・第4章:写楽“発見”―江戸歌舞伎の世界

 蔦重の関わった作品を通じて彼の業績と江戸文化に触れる展覧会。会場の入り口にある写楽の「三世市川高麗蔵の志賀大七」、同じく写楽の「二世嵐龍蔵の金貸石部金吉」、歌麿の「夏姿美人図」が目を惹いた。
 吉原の書店「耕書堂」の店先を再現した趣向もある。

×  ×  ×

 浮世絵の専門家である高橋克彦の「だましゑ」シリーズを思い出した。
・だましゑ歌麿
・おこう紅絵暦
・春朗合わせ鏡
・京伝怪異帖
 葛飾北斎の若き日の春朗時代に『密偵』だったと、高橋克彦は小説を作っている。田沼意次から松平定信の時代の移り変わりが描かれている。
2010年12月9日観覧

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2010年12月7日火曜日

和田竜「のぼうの城(下)」

大賢は愚に似たり――竜馬のような成田長親
 和田竜の「のぼうの城(下)」(小学館文庫)を読む。

 大賢は愚に似たり。
『のぼう様』成田長親は坂本龍馬を彷彿させる。
 本当の賢人・大物というものは、一見(常人には)馬鹿に見えるものかもしれない。司馬遼太郎の小説「竜馬がゆく」のなかで、土佐の大殿さま、山内容堂が初めて坂本竜馬と会見して、その人物評だったと思う。「大賢は愚に似たり」と言ったとか。

 木偶(でく)の坊、成田長親は一見うすら馬鹿だが、只者ではない。『将器』だった。

×  ×  ×

 石田三成の使者、長束正家の高圧的な降伏勧告に、長親は「戦いまする」と返答する。小田原城に籠城した忍城の城主・成田氏長だが、関白秀吉に内応しており、正木丹波らに和睦を言い付けていた。氏長の意思を翻し、長親は忍城の総大将として立ち上がる。
 敵将の戦の決断に三成はほくそ笑む。忍城各門に大軍を配する。が、緒戦は意外にも劣勢の長親軍に痛い目に合う。
 三成は忍城を水攻めの奇策を練るのだった……。

 緒戦に敗れた三成が、下忍村の百姓かぞうから敵将の正体を探る描写を引用する。
「なぜのぼう様じゃ」
「いや、それは」
 かぞうは躊躇するふうであったが、やがて
「でくの坊ゆえ、皆、のぼう様とお呼びいたしてござります。
――中略
「どう思う」
三成は、(大谷)吉継にきいていた。
「でくの坊といわれて平然としておる男か」
 吉継は深刻そうな顔つきでつぶやいた。
「果たして賢か愚か」

目次
・3
・4
・終

×  ×  ×

 ただ長親は竜馬ほど颯爽としていないのだよね。「将器」をときたま見せるものの、冴えない男で、正木丹波や柴崎和泉、酒巻靱負(ゆきえ)の脇役陣の方がよほど武(もののふ)って感じでかっこいい。
 大賢は愚に似たり――長親からそんな竜馬評を表す言葉を思い出しました。

 ところで、大谷吉継ですが、戦国武将で人気に高い真田幸村の義父になるのですね。池波正太郎の「真田太平記」にも登場します。幸村は彼の娘を正妻に迎えています。
2010年12月6日読了

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2010年12月4日土曜日

和田竜「のぼうの城(上)」

石田三成2万の兵に囲まれた忍城
 和田竜の「のぼうの城(上)」(小学館文庫)を読む。2003年城戸賞を獲得した脚本「忍ぶの城」を、2007年に「のぼうの城」として小説化し刊行した作品。

 戦国は天正18年(1590年)。天下統一をめざす羽柴秀吉は、大軍を投じ関東の雄・北条家の牙城・小田原城を攻める。秀吉から臣下石田三成に、北条家の支城、武州の湖に囲まれ『浮き城』といわれる忍城(おしじょう)を陥落せよと下知が飛ぶ。
 忍城の城主・成田氏長は小田原城に籠城し、病床の成田康季(やすすえ)が城代を務める。成田家の当主氏長の従兄弟で、康季の長男・成田長親(ながちか)はうすらデカく凡庸さから『のぼう様』と呼ばれ民から親しまれていた。
 攻める石田勢2万余兵は忍城を一望とする丸墓山に陣を構えた。守る成田勢はその数500兵。絶体絶命の危機にある忍城であった。忍城には、長親を中心に武勇の侍大将・正木丹波守利英、丹波をライバル視する柴崎和泉守、天才戦術家を自称する酒巻靱負(ゆきえ)、氏長の娘・甲斐姫が戦況を見守っていた。
 三成の使者、長束正家が忍城に出向き城代の代理、長親に降伏を迫った……。

目次
・序
・1
・2

×  ×  ×

 2011年に映画化され、主人公の『のぼう様』長親役を野村萬斎が演じるそうな。『のぼう』は「木偶の坊(でくのぼう)」から採った別称。
 映画化前提の内容だけに、丹波、和泉、靱負、甲斐姫、三成、正家らが生き生きと描かれている。文章も軽快なテンポで心地よい。シロイヌ。
2010年12月3日読了

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