2010年6月29日火曜日

司馬遼太郎「人斬り以蔵」

佐藤健の好演が光る
 佐藤健の演じる岡田以蔵がいい。純粋さや孤独、劣等感など以蔵の内面を表現しているではないか。従来の以蔵役は、猛々しい偉丈夫というイメージだが、ナイーヴな姿を活写している。NHK大河ドラマ「龍馬伝」の話である。

×  ×  ×

 「龍馬伝」を観ながら、司馬遼太郎の「人斬り以蔵」(新潮文庫)を読む気になった。
・鬼謀の人
・人斬り以蔵
・割って、城を
・おお、大砲
・言い触らし団右衛門
・大夫殿坂
・美濃浪人
・売ろう物語
以上8編の短編が収められている。

 表題「人斬り以蔵」はそのうちの1作。幕松の京の街で『人斬り』と怖れられた土佐藩の足軽出身の岡田以蔵の物語だ。
 土佐の藩士は上士、郷士、足軽の3階級に分かれる。身分差は明確で、足軽は雨がふってもはだしで、高下駄がはけない。郷士は酷暑のころでも日傘がさせない。上士には、郷士と足軽に対しては「無礼討差許」という他藩にない特権が与えられていた。
 剣術など習える身分でない以蔵に、武市半平太は手をさしのべる。道場での稽古を許し、江戸への剣術修業へも同行させる。幕末の剣豪、鏡新明智流の桃井春蔵の道場「士学館」にも通わせる。武市を師として崇拝、盲信する以蔵は、やがて殺人にも手を染めていく。

 司馬遼太郎はこの短編を、
――不幸な男がうまれた。
と書き出している。

×  ×  ×

 1969年(昭和44年)勝プロダクション製作の「人斬り」という映画があった。監督は五社英雄。岡田以蔵は勝新太郎、武市半平太に仲代達矢、坂本龍馬には石原裕次郎という豪華配役だった。
 薩摩示現流の人斬り田中新兵衛は作家の三島由紀夫が演じていた。三島の切腹シーンが壮絶だった。彼は1970年11月15日、自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げたのだった。

×  ×  ×

 さて小説の最後。武市の切腹は腹を三文字に割いて検視の役人も目をみはるみごとさだった。武士の扱いを受けない以蔵は曝し首だった。
 師匠の切腹のころは首だけの以蔵が、雁切河原の獄門台の上で風に吹かれていた。

「龍馬伝」では、7月11日放送で佐藤健の岡田以蔵は処刑されることになるそうだ。

0 件のコメント: