2009年10月16日金曜日

高橋克彦「春朗合わせ鏡」

父は公儀お庭番

 高橋克彦の「春朗合わせ鏡」(文春文庫)を読む。「だましゑ歌麿」「おこう紅絵暦」の姉妹編で、春朗こと葛飾北斎を主人公にした「だましゑシリーズ」のスピンオフで作品である。
・女地獄
・父子道
・がたろ
・夏芝居
・いのち毛
・虫の目
・姿かがみ
連作7編からなり、若き絵師春朗が事件を解いていく。

「京伝怪異帖」で伝蔵こと山東京伝や風来山人こと平賀源内、安兵衛こと窪俊満ともに活躍した女より美しい若衆髷(わかしゅわげ)の蘭陽が春朗を助ける。北町奉行吟味方筆頭与力の仙波一之進、元柳橋の芸者で妻おこう、隠居の左門などのお馴染みレギュラーメンバーも揃って登場する。
 父親は公儀のお庭番であること、少年時代に叔父にあたる御用鏡師の中島伊勢のもとに修行に出るが辛抱できずに逃げ出したこと、絵師を志し勝川派に入門したが画風が合わず破門されたこと、葛飾に妻子がいて月に2,3日帰っていること、中島家からは養子縁組を、父親には隠密を引き継ぐように勧められていることなどが、連作を読み進むにつれ春朗の生い立ち・生活ぶりが明らかにされる。
 また、作者の浮世絵に対する造詣が随所に生かされている。
 そういえば、高橋克彦は「北斎殺人事件」(1987年)で北斎隠密説を展開しているが、「春朗合わせ鏡」はその延長線上にある作品といえるだろう。
2009年10月14日読了

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